■ 2

 有無も言わさず、早々に大浴場へと運ばれて触れるだけでも痛みを感じる突起をうしろから抱きこまれるように丁寧かつ執拗に洗われて(いや愛撫と言ったほうが正しいと思う。)全身をくまなく洗われたころにはよりそこは赤味を増していて、恥ずかしいくらいに立ちあがってしまった。しかもいままで恋人のいなかったおれに手とり足とり腰とりといちから恋愛のいろは、そして恋人同士の夜の営みを教えてくれたのは、ほかならぬコンラッドであり、いまやおれのからだはいろいろとおそらく彼好みに性感帯が開発されてしまっていて……下半身も恥ずかしながら勃ちあがっている。
「おや? 擦れた乳首を洗ってあげただけなのに、突起以外にも可愛らしく立ち上がらせてしまっているのですか?」
「……言い方がいちいちおっさんくさいぞ、コンラッドっ」
 耳元で囁かれて背中がぞくり、と粟立つ。
 本当になんで浴室はこんなにも、声や音が響くのだろう。押し殺した小さな声まで壁に反響して、羞恥心を煽る。
 まったく、ふだんは奥手なくせにこういうときだけ積極的で腹が立つ。
 下肢にのばされた彼の手をあわてて掴んでみるが彼は自分の行動を予測していたようで、喉奥でくつくつと笑うと掴んだ手とは反対の手でおれの手をはずし、掴みなおすと勃起した陰茎を握らせる。その熱さに手を引こうにも自分の手より一回りは大きいコンラッドの手が覆いかぶさり、おれは陰茎を握らされたまま固定された。
「……湯船に入るのに、ここを熱くしたままでいいのですか?」
 湯船で吐き出すの? 卑猥な台詞に頬がかっと熱さを増す。顔を後方へとそらして睨んでみるも、コンラッドは妖艶な笑みを浮かべたままでおれの怒りを増加させるように小首を傾げてみせた。
「……ほんっとあんたっておっさん!」
「おっさんでけっこうです。ユーリのいやらしい姿を堪能できるならそのお言葉、喜んで受け入れますよ」
 頬にキスをひとつ落とすと「さて、」と彼はさきほどよりも声音を低く口を発しておれの手と一緒に陰茎を上下に扱きはじめた。
「……あっ!」
「あいかわず、いい声ですね。ベッドのうえであなたの甘い声を聞くのも好きですが、ここだと必死に押し殺している声も濡れて粘る水音もよく、聞こえる」
「うる、さ……いっ」
「かわいいですね。ユーリは」
 一体どこがかわいいのか。押し殺しても、口端からこぼれる嬌声とともにだらしくよだれを出してるというのに。彼のかわいいの基準がわからない。
 陰茎にじかに触れているのは自分の手のなのに、追い込む手管はコンラッドのもので、頭が混乱しておかしくなりそうだ。気がつけば息があがり、口が閉じられない。口ではいやだと否定の言葉をしているのに、おれのからだは正直だ。
 理性が本能に食いつぶされていくのがわかる。コンラッドも興奮をしているのか、耳元で息を飲む音が聞こえて一層肢体に快感が巡る。
 この男はずるい。
 無意識のしぐさでおれの感情と快感をかんたんに煽ってしまうから。
 ああ、ほら。
「コンラッド、」
「なんです?」
「……っも、むりっ」
 口元も理性もゆるくなる。
 口に出した言葉に目をぎゅっと瞑ったが、瞼のうらにコンラッドが底意地悪そうに微笑みを浮かべたのがしっかりと映った。きっと、いまおれのうしろで彼はしている表情に違いない。
 おれには、コンラッドの顔など見なくてもわかるのだ。……たぶん、それは彼にも言えることで、きっとコンラッドにもおれがどんな顔を、なにを求めているのかわかっている。それをわざわざ口にすることを要求するなんて、本当にコンラッドという男は性格が歪んでいる。
 毎回、お強請りを求められるたびに思うのにそれを受容してしまうおれもどうしようもない男だ。
「イきたい?」
 根本を指でせき止められ、弱い裏筋を重点的に攻められてじらされると罵倒や反抗するよりもさきにからだを暴れまわる熱をはやく吐き出したくておれは首をたてに振る。その様子に満足したのか、コンラッドは耳の裏を舐めあげて「わかりました」と囁く。
 くそ! なにがわかりました、だ! 
「……ぁっ!」
 根本を戒める指の強さがわずかに緩み、反対に絶頂へと追い上げる愛撫の強さが強いものへと変化して、背中がそらして後頭部を彼の胸へと擦りつけた。うっすら目を開ければコンラッドは明るい声で一言。
「あなたのそういう顔を見るのが、とても好きです」
 最低だ、あんたはっ!
 その言葉は、悲鳴にも似た自分の嬌声によってかき消された。


 ―― 一度、夜の帝王モードに入ったコンラッドのスイッチはこんな恥ずかしめをするだけでは切れることがない。抜かずの三発なんて、あたり前だと思っているくらいには鬼畜人間へと変貌する。
 現にいま、魔王専用大浴場で抜かれたあと、一瞬意識を飛ばしたおれを手早く介抱してくれたかと思うと、湯船に入ることもなくコンラッドの自室に連れ込まれて、ベッドへと運ばれてしまった。しかもすぐには寝かせる気はないのか「秘密にしていたお仕置きをしなくてはいけませんね」といけしゃあしゃあと吐いた。
 コンラッドの帝王モードへときっかけを作ったのはおれだけど、それにしたってニップレスじゃなくて、乳首に絆創膏を貼って欲情するなんてこの男は頭がおかしいんじゃないかと思う。グラマーなお姉さんとかがやればはなしはべつかもしれないが、真っ平らの男の胸だ。しかも乳輪がいつも以上に大きい男の胸をみて興奮するなんて。
 なあ、どうして? と、尋ねたくなったがおそらくコンラッドはさらりと恥ずかしいことをぬかすに違いないのでおれはやめた。それに聞いたところで、なんの意味もない。この男が、おれを寝かせてくれないであろう事実にはかわりないから。
 ついさきほど着せられた寝巻きの上着のボタンははずされ、コンラッドがおれの首元に顔を埋める。まだ浴場でのなごりもありそれだけでからだが振るえた。
「ユーリは、敏感ですね」
「……っ、さっきイったからっ」
「まあ、それもありますけどあなたは最初から敏感ですよ。俺の愛撫で感じてくれるなんてうれしいな」
 首筋に埋められた顔がゆっくりとすべり落ちていく。体力が半減したからだでは覆いかぶさるコンラッドの行動をとめることはできない。いや、できないというのは言い訳だ。本気でおれがいやがればコンラッドはやめる。やめて、泣きそうな顔でおれに何度も繰り返し謝る。彼はそういう男だ。とことんおれに甘く、弱い。
 コンラッドは、おれにたいしてとても敏感にできている。
 おれが口でいやがってもそれが本気ではないことを知っているから。
 おれは、コンラッドがみせる無邪気な子供みたいな顔に弱い。『俺だけのもの』という独占欲に満ちた子供の顔に弱い。恥ずかしくてやめてほしいと思う反面、もっとそんなコンラッドの顔を見てみたいと思う矛盾のほうがいまはおれの気持ちを占めている。
 相当、おれも頭がおかしいのかもしれない。好きになるとこうもひとはおかしくなるのか。
「痛っ!」
 と、突然甘い快感にぼんやりとしていた思考が鋭い痛みでクリアになった。コンラッドが左の乳首を噛んだのだ。歯型が残るんじゃないかと思うくらい、強く。
 すでに擦れて腫れあがっているのに、なんてことするんだ。
「いきなり噛むなよっ!」
「セックス最中に考えてごとをしていたみたいだから、こっちに集中してもらいたくて」
 言って、もうかたほうの突起を指で摘まむ。その摘まみかたも強く痛みを覚えるような愛撫で視界が涙で歪んだ。
「本当にいやらしい色をしていますね。このままの乳首だったらどうしましょうか? ……もうすぐ日本では水泳の授業が始まると言っていましたし」
 みんなの注目のまとですね。とコンラッドは「困りましたね」と言いながらも顔には心配をしているような表情はうかがえないから、ムカつく。
「……困るんなら、そこを噛んだりするなよ。本当に戻らなくなったら困る」「そうですね。ここは優しくしてあげないと。また舐めて消毒しましょうか」
「いや、だからそういうはなしじゃ……っンぁ!」
 帝王モードは、ひとのはなしを聞かないからこっちのほうが困った問題だ。
 噛んだ乳首に再び舌を這おわせ乳輪ごと口内に吸われる。痛みで瞳に溜まった涙が今度は強く甘い快感で涙の量を増やし、瞬きをすると涙が頬を流れた。
「痛いの、痛いの、飛んでいけー」
「うるさい!」
 地球にスタツアしたときコンラッドは一体どんなことを学んできたのか。
「だって、痛いのは早めに治ったほうがいいでしょう? 痛いのは全部ここで吐き出してしまいましょうね」
 そう言うと、コンラッドはおれの下肢を太ももで割り、淫部を擦る。
 コンラッドは、エッチになると卑猥な言葉をわざという癖がある。そんなの何度もからだを重ねてきたからわかっている。だけど、言わせていただきたい。
「恥ずかしいことべらべら口にすんな! ばか!」
「すみません、つい癖で」
 その癖、はやくなおせよ。
 どうやらおれの乳首の痛みは頭へと飛んでいった模様。コンラッドの発言に頭がとてもくらくらしてきた。


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