■ よいお年を。



 ユーリ陛下は稀に見る美形で、この国――眞魔国では高貴だと言われる『黒』を髪と目に宿しております。
 そして陛下は歴代の王に比べものにならない絶大なる魔力をお持ちで、王としては十六歳と最年少であります。
 ユーリ陛下の素晴らしいところはそれこそ数えきれないほどございますが、なにより素晴らしいと思うのは『お心がやさしい』というところにあるとわたくしめは思うのです。
 わたしたち国民は、王とともに生きていましたが『共に』は生きておりませんでした。と、言いますのも私たち国民は例えが悪いですが『王のコマ』でしかなかったからでございます。
 私たちに『はい』と『いいえ』の選択肢はありませんでした。
 王が決めたことには『はい』の一択のみ。なにをするのもそれが良いか悪いか判断するのは王ただおひとりでした。
 しかし、ユーリ陛下は違います。
 またユーリ陛下は私たちに一度も『命令』をしたことがございません。なにをするときも『お願い』と言うのです。お願いなどせずとも、命令をすればだれでも言うことを聞くのにと思うのですが、陛下曰く『命令なんて言われて気分のいいひとはいない。それにこちらから頼んでいるんだからお願いであってる』ということだそうで。ここまで、私たち国民に尋ね、声をきいてくだだり、私たち同じ目線で話をしてくれる心やさしく気さくな王はこれまで見たことがありませんでした。
 そしてユーリ陛下は多くのひとの冷たいこころ溶かしています。陛下が王に就任される以前は前魔王陛下であるツェツィーリエ様の三人の息子。特にフォンヴォルテール卿グウェンダル閣下、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムとウェラー卿コンラートの仲は悪かったのですが、いまでは仲睦まじい関係を築いていらっしゃいます。
 ――さて。話はかわりますが、ユーリ陛下は十六歳ということもあり、活発な方でいらっしゃいます。そしてこの世界とは異なる『地球』という世界で過ごしていたこともあり、発想力もあり、時折私たちが考えもしなかったことを提案されるのでございます。
 もうすぐ一年も終わりだという年末。
 ユーリ陛下は突然、城にいる全員に『今日は大掃除をしようと思います!』と言いだしました。
 そのことばに一番首を傾げたのは私たち下女でございます。なぜなら常日頃、掃除をしているからです。
 しかし陛下は『日本では物には神様が宿っていて、それらの神様に感謝をし、気持ちよく過ごしてもらう』また『一年が良い年になりますように』という意味がこめられているから大掃除をしたいとのことでした。
 ――そうして、陛下の突発的な提案からはじまりました大掃除ですが、日々陛下には快適にお過ごしいただきたいと私たち下女は隅々まで掃除をしていますので目立つ汚れはございませんでした。けれど、掃除を通して普段交流をあまりない兵やそして陛下の側近の臣下の方々とおはなしをすることができました。こうして身分隔てなくおはなしできることなど考えたこともありませんでしたし、本来ならばありえないことです。これもユーリ陛下が口癖のように『過剰な上下関係は交流の機会や相手を知ることができない』とのことから現実にできたのだと思います。
 そしてなにより畏れおおくも私はユーリ陛下ともおはなしすることができました。
 陛下はどこを掃除しても目立った汚れがないことに驚き、それから「ホコリやゴミがでないのはいつもみんなが一生けん命掃除をしてるからなんだよね。きれいにしてくれてほんとうにありがとう」と感謝のことばを述べたのです。
 我々下女にとっては掃除をすることは『仕事』であり当たり前のことではありますが『私たちの仕事をちゃんとみてくださっている。感謝をされる』ということはそれはそれは涙が出るほどうれしかったのでございます。
 それから朝早くよりはじまった大掃除は日が傾いた夕暮れどきに終わりを迎えました。普段以上にきれになった城を見、また、達成感に胸が包まれだれもが笑顔でございました。
 最後にユーリ陛下が私たちに『良いお年を! 来年もどうぞよろしくお願いします』と仰いました。
 それに私たちは深くあたまをさげ同じく「陛下も良いお年を」と答え、きらきらとあたたかく照らす太陽を彷彿させるような笑顔を浮かべるユーリ陛下を見つめ私は、心から陛下にとって来年が今年よりも笑顔でいられる輝かしい年になりますようにと願い、また、この素晴らしき魔王陛下の元で働けることを誇りに思ったのでございました。

END


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