■ 可愛い子猫とお正月!
無事、年末に患った風邪は完治し年を越すことができた。
三十一日は、可愛い子猫とテレビを観ながら年越しのカウントダウンをしようとはなしてはいたものの、ユーリは夕食を食べてから数分でうとうととしてしまったので、その夢は叶わなかったがもともと二十一時ぐらいには寝ているのだからしかたのないことだ。
そうして、眠りこけた子猫を抱きあげて一緒にベッドへとはいりこむ。
とはいえ、ユーリと同じようにすぐに眠れることができなかった。ようやくコンラートが目をつぶったのは、新年を祝う盛大な花火が打ち上げられたころだった。寝室のドアは閉めてあるので、ドン、ドン! と鳴り続ける花火の音もぼやけていてさしておおきくはない。
それを聞きながら、コンラートは自分の胸ですやすやと眠っているユーリに顔をよせ、そっと耳元で囁いた。
「……明けましておめでとうございます」
もちろん、返事はない。かわりに子猫はすこし眉間を寄せよコンラートの胸に顔をうずめ、ユーリのやわらかい髪の毛をあやすように撫でつけながら笑みを浮かべる。
「ごめんね。寝ているのに、いたずらみたいなことをしてしまって。どうか、今年もユーリにとってしあわせな一年でありますように」
言ってコンラートはユーリの撫でつけていた髪を移動させて前髪を慎重にすくうと祈りを込めてあらわになったちいさな額にキスをした。
いたずらではないが、年がかわるまで起きていたのはだれよりもはやく子猫に新年にむけた祝福のことばを告げたかったからだ。
朝起きてからでも、よかったが年甲斐もなく待ちきれなかった。可愛く愛しい黒猫子猫。
出会ったときよりも心もからだもうんと成長している。
一年が早くすぎようと、遅くすぎようとコンラートにとってはいままで大差のないことだった。
しかし、子猫と出会ってからはどうだろう。
一日が終わってしまうのがさびしいとも思うし、明日はなにをしようか考えるようになっていた。
子猫と出会ってすぐにカメラも購入し、ことあるごとに写真を撮ってはアルバムにそれらをおさめてきた。もうアルバムは何冊目になるだろう。
思い出すと、それだけであたたかい気持ちに包まれる。
ユーリはひとりでできることが、多くなった。漢字もかんたんなものなら読めるし、書ける。計算も指をつかわずに暗算ができるようになった。買い物に行くにもユーリ用にお財布は持つようになっている。
「……成長するのがはやいよ」
まだまだちいさい『子』のつく黒猫。昨年のことを思い出せば日々、成長していくユーリの姿はまだ見えぬ未来をコンラートに連想させた。
いまはまだ、手をつないだり抱っこをしたりするがいつその手は離れてしまうのだろうか。それが、そう遠くない日であるような気がしてしまう。
「こ、んらっどぉ……」
ふわふわとした声がコンラートを呼ぶ。視線を子猫へと向ければユーリは目をつぶったまま。
どうやら、寝言らしい。
「こん……すき……ぃ」
言って、子猫がくちを綻ばせ、コンラートは眉根をさげた。
かなわないと思う。
すごいと思う。
「……愛してるよ、ユーリ」
自分の悪い癖。幸福にひっそりと存在する影を探してしまう。その影に足を踏み入れたとして、いいことなんてないのを知っているのに。
癖は治らない。
影に踏み入れて立ちすくむ自分にいつも子猫が、ユーリが――手を差し伸べてくれる。
救ってくれる。
だから、かなわない。
今年も自分の世界はユーリ中心としてまわるのだろう。 外から聞こえる花火の音が、徐々に減っていく。
コンラートは子猫を抱きしめなおすとゆっくりと瞼を閉じた。
明けまして、おやすみなさい。
(一月一日。新年明けて目を開けた子猫が目に映るものが、子猫の浮かべる笑顔がどうか……コンラート・ウェラーでありますように。)
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