■ かわいい子猫の夢のおはなし!
いつからおなじゆめをみていたのか、わかんない。でも、こんらっどにであうまでゆーりはなんどもおなじゆめをみていたの。
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まっしろでまどひとつないしろくてこわいへやにいつもゆーりはいた。へやのすみでひざをかかえてただひたすらにじかんがすぎるのをまってたんだ。いちにちになんかいかしろいようふくをきたひとがゆーりにあいにくる。そのときのゆーりのなまえは『ぜろぜろにーきゅう(0029)』だった。ゆーりはじっけんだいでなまえはばんごう。しろいふくをきたひとはゆーりにちゅうしゃをする。とってもいたくてちゅうしゃをされるたびにないて、そこでいつもゆめがかわるの。
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ゆめのなかできぜつしたゆーりがめをさますとそこは、こわいおばあさんがすんでるまどにはさくのついたおうちだった。おうちのなかにはゆーりとおなじようにうでにあかいてんてんのついたこどもがいた。そこでは、ちゅうしゃがされないかわりにやくそくがあった。まいにちおばあさんはみんなにめいれいをする。そのめいれいができないこどもはたたかれて、いつもごはんがたべれなかった。ゆーりはいっしょうけんめいがんばったけど、いつもうまくいかなくておばあさんのいえでのゆーりのなまえは『できそこない』だった。ゆーりたちはいつかぺっとになるだっておばあさんはおしえてくれたけどこわいおばあさんはゆーりにいうの。
『みみもめもまっくろで、おかしいあんたはずっとできそこないで、だれもかってはくれないだろうね』って。
ゆーりはそのたびに、なきなくなったけどがまんした。ないたらたたかれる。いたいのはいやだ。それにおばあさんのことばはほんとうだったから。
いちにち、いちにちすぎるたびにこどもはおうちをでていって、さいごにはゆーりだけがのこった。
やっぱりゆーりはできこそないで、みんなみたいにかわいくないまっくろだからだれもゆーりをひつようとしてくれないんだ。
ゆーりはいつまでたってもできそこないで、ごはんをたべないひがあたりまえだった。そのうち、あたまがくらくらして、からだがさむくてたおれたときはじめてゆーりはちいさなはこのなかたおるにつつまれてねむるようにいわれた。
ゆめのなかでまたねむって、ゆめのなかでめをさましたら、そとだった。
ちいさなはこのなか、そとはまっくらでほしがきらきらひかっていたの。
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「いやあああっ!」
「ユーリ!?」
自分のとなりで穏やかな寝息をたてていたはずの子猫の悲鳴で俺は目を覚ました。慌ててユーリのほうをみるが彼はあんな大きな悲鳴をあげていたのに関わらず、目を覚ましていなかった。悲鳴を上げ、顔を苦痛に歪める様子に少々乱暴だとは思ったが子猫の肩を揺すぶり名を呼ぶ。
「ユーリ! ユーリ! 起きて、目を覚まして!」
そうして、何度も名を呼びかけるとやっとユーリが目を覚ました。けれど、いまだ覚醒はしていないのか俺の手を拒むように暴れる。
「こわいっ! やだ! こわいよ、こんらっど! こんらっどはどこ!」
ベッドサイドの照明をつけ、暴れる子猫を抱きしめる。こんな風にとりみだすユーリは初めてだ。
「ユーリ、俺はここにいるよ。ユーリ、ユーリ……っ」
胸を叩いて暴れる子猫を抱きしめ、頭を撫でるとようやく起きたのかユーリはしゃっくりをあげながら顔を上げた。
「こ、んらっど……?」
「やっと起きたね、よかった。そうだよ、コンラッド。ユーリ、怖い夢を見ていたのかな?」
尋ねると、見ていた夢を思い出したのか子猫のからだがぶるりと震えた。その背中をあやすように撫でつける。
「すごく、こわかった……」
「どんな夢をみていたの?」
「……こんらっどとあうまえのおもいで、ゆーりがいまよりもずっとできそこないだったひとりぼっちのころの」
「出来そこない……」
本来であれば、こんな小さな子が口にすることのなどないことばをユーリが言う。胸が痛い。この子は、自分と出会うまでどんな悲しい生活を送ってきたのだろう。絶えずぽろぽろと大粒の涙を流す漆黒の瞳の端に口唇をあてて涙を抑える。口内にしょっぱくて悲しい味が広がった。
「それはとても怖い夢だったね。でも、それはもう昔のことで夢のはなしだよ。ユーリは出来そこないじゃなければ、ひとりぼっちじゃない。とてもいい子で俺にとってなによりも大切な子だ」
「ありがとう、こんらっど」
ユーリはそう嗚咽の混じる声でぎゅっと俺の胸元を掴む。パジャマは子猫の涙でぐっしょりと濡れていた。
――それから、俺はユーリを抱き抱えてキッチンに移動し、はちみつ入りのホットミルクを作った。末弟が昔怖い夢を見て眠れなくなったときによく作ったものだ。ミルクとやさしい香りとはちみつの甘さにほっとするのだと、いつか教えてくれたのを思い出す。
ユーリも時折しゃっくりをしながらもホットミルクを飲んでいるうちに落ちつきを取り戻したのか、飲み終わったころには笑顔を見せてくれるようになった。本当は、ユーリの見た夢を詳しく聞きたかった。けれど、情緒不安定ないま聞くのはユーリをより不安定な状態にさせるだけだ。
ホットミルクを飲み終わった子猫を再び抱きあげてベッドにはいる。ぎゅっと抱きしめて。
いつか、子猫がはなしてくれるのを待とう。それまでは……。
「おやすみ、こんらっど」
「おやすみなさい、ユーリ。今度は素敵な夢が見られますように」
毎日がしあわせに暮らせるよう願ってユーリの額にキスを落とした。
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コンラッドはほんとうにやさしいひとだ。いつもおしごとでつかれてるのにごはんはつくってくれるし、おやすみのひはどこかにつれてってくれる。なによりゆーりのことをだいすきだっていってくれることがうれしい。たいせつなかぞくだっていってくれることがうれしいの。
ゆーりはこんらっどにひろわれてはじめてじぶんのことがすきになった。はじめてうまれてきてよかったっておもえるようになったの。
そういうことをこんらっどにぜんぶつたえたいのに、いっぱいあってことばにならない。だからゆーりはもっとかしこくなりたいからべんきょうする。はやくおとなになりたい。
こんらっどみたいなひとになりたい。
こんらっどは、ゆーりのみたゆめのはなしをきかなかった。でもかおをみると、とてもしんぱいそうなかおをしてたからききたいのかなっておもった。だけど、きかなかった。こんらっどはしってるんだ。ゆーりがゆめのはなしをしたらまたないちゃうことを。
いつかちゃんとこんらっどに、はなせたらいいな。
こんらっどとであうまえのじぶんのこと。それからこんらっどとであってどれだけゆーりがしあわせなのかってこと、ぜんぶいえるようになりたい。あったかくてあまいほっとみるくをのみながらゆーりはおもった。
それからこんらっどはゆーりをやさしくだきしめて、おでこにきすしてくれた。『しあわせなゆめがみれますように』って。
こんらっどがこもりうたをうたってくれる。えいごでゆーりにはよくわからないけど、ゆーりはこのうたがだいすきなの。ほっとみるくとおなじでやさしくてあまいこんらっどのこもりうたがすき。
だんだんとあたまがふわふわとして、こもりうたがとおくにきこえる。
*。・・。* *。・・。*
めがさめた。ゆめのなかで。ゆめはさっきのつづきだった。
ゆーりはちいさなはこのなか、しらないまちのびるのかたすみでまっくらなそらにきらきらとひかるほしをみている。
でも、さっきみたいにもうまっくらでひとりでこわくてもなかないよ。
ここからさきのゆめははじめてみるけど、しってるんだ。
「ユーリ!」
じぶんのなまえをよんでくれるひとがいる。
もう、ぜろぜろにーきゅうでもなければできそこないでもない。
「こんらっど!」
じぶんは『ゆーり』
こんらっどはゆーりをはこからだしてだきしめてくれる。ゆめのなかなのにあったかい。ゆめのなかのこんらっどもゆーりのおでこにきすをして「だいすき」っていってくれるんだ。
ああ、だめだ。まだゆーりはできそこないかも。
もうなかないっていったのに、こんらっどにだきしめられたらまたないちゃった。
うれしくてもなみだがでることも、こんらっどがおしえてくれた。
たぶんこれからも、おなじゆめをみるとおもう。だけど、もうだいじょぶ。
こわいゆめはこわいゆめだけでもうおわらないから。さいごはこんらっどがきてくれる。それだけで、しあわせなゆめになるんだ。
かなしいおもいではこんらっどとであうためにあったんだ。こんらっどといっぱいしあわせなおもいでをつくるために。
「こんらっど、だいすき!」
ありがとう、こんらっど。
ゆーりになまえといばしょをくれて……ほんとうにありがとう。
こんらっどのおまじないはよくきくの。
いま、ゆーりはゆめのなかでうれしくてないちゃうくらいすてきなゆめをみてるよ。
END
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