■ 4

「――今日のユーリはとても積極的ですね」
 コンラッドは、意地の悪そうなトーンで言う。
「っさい! しかたないだろ」
 加減が効かないんだ。
 と、ユーリはぶっきらぼうな返答をすると、コンラッドの顔をみることなく再び筋の浮かぶ男の陰茎を咥えはじめた。口に収まらない部分や睾丸は、手のひらや指を使って愛撫する。
 いまのいままで本能を理性で抑えていたが、己の持つ浅ましい想いを受け止めてもらったことがたまらなくうれしくて感情のコントロールができない。やってはいけないと思うものの我慢できなくて、興奮で勃起した自分の陰茎をユーリはシーツへと擦りつけた。
 あのあと、普段ではあまりしないディープキスからふたりとももつれあうようにしてはじめたのでお互い、いまだ衣服を着衣したままだ。シーツに擦る勃起した陰茎が下着を擦り、先走りがぬるぬると生地を濡らしていく。
「普段の恥ずかしがり屋さんなあなたも大好きですけど、いやらしい積極的なあなたもとても魅力的でどうにかなってしまいそうですよ」
 ちいさく甘い吐息を漏らしながら言う男にユーリは視線だけをそちらに向け、わざと水音を立てるように吸い上げた。すると、わずかにコンラッドの表情が歪む。
「なればいいじゃん。おれはもうどうにかなってるんだから、おれだけがっついてんのとかいやだ」
 ユーリは挑発するように、上半身をあげるとコンラッドの口唇をぺろり、と舌で舐め再び馬乗りになるとシャツのボタンをすべて外してみせる。
「……正直、まだ不安なんだよ。あんたがへんたいでいやらしいやつでも受け止めてくれるって言ってくれたけど、ぜんぶを信じることができない。こんなおれに興奮するっていうならちゃんと証拠見せて」
 自分を求める姿を行動をしてみせてほしい。たてまえで、同情でないことをみせてほしい。
「もしコンラッドもがまんしてるんだったら、がまんしないで」
 じっとユーリはコンラッドの瞳を見据えた。
 仮にも彼は自分のバッテリーなのだ。目を見ればうそか本当か判断できる。カミングアウトをして、コンラッドのことばが偽りでないことはもうわかっていた。けれども、もっと直接的な証拠がほしい。自分のようにまるで発情期を迎えた獣をおもわせる激しさが。
 ユーリはコンラッドの首に腕をまきつけ顔を彼の耳元へと近づけると小さく吐息を吹きかけ一拍置いてわざと甘えた声音で「おれが欲しくない?」と囁いた。
「……っ、ユーリ」吐息を吹きかけられた男がめずらしく声を上擦らせ、それから「そんなに俺を煽って……どうなっても知りませんよ」と答えた。その声は、低く妖艶なものでユーリの興奮をより高めた。コンラッドの顔が首筋に埋まったかと思うとある一点にきゅっと吸いつき、痛みが走り痕をつけられたのだと知る。そこは学ランを着るとぎりぎりのライン。
 もしだれかに見つかってしまったら……と、思うがそれ以上に所有印をつけてもらえたことに喜びを感じる。どうやら自分は束縛されることが好きらしい。甘い快感に酔いしれながらぼんやりと思った。
 首筋にいまだ顔を埋め、いくつかのキスマークをつけるコンラッドの右手が背中をなぞり黒地下着の紐をほどくと双丘をなぞり、滑る。そして谷間に指を這おわせ菊花を中指で突いた。
「オナニーをしたとおっしゃったわりにはここはきついですね。弄らなかったんですか?」
「弄ったことな、い。だってどうやっていいか……っ」
 何度かしてみようとは思った。彼とからだを繋げたときのような快感が欲しくて。けれど繋がる箇所は固く侵入を閉ざしているのだ。無理矢理指を入れても第一間接が入るまえに痛みが走りからだがすくんでしまう。そのたびに自慰行為に耽る虚しさも募った。思い出して、表情が曇る。
 コンラッドは、それを見てユーリの思いを悟ったのか「すみません」と唇にキスをした。
「ここはね、いっぱい濡らしてあげないとだめなんですよ」
 菊花に触れていた手を、陰茎へと移動させると、立ちあがって先走りを手のひらに塗りつけるように上下に扱く。
「あ、ん……っ」
 粘ついた水音がしたから聴こえ、首筋からちゅっ、ちゅっ、と何度もくすぐったいキスの音。ふたつの音に鼓膜が絶え間なく刺激されておかしくなりそうだ。そのうちに、澱部にコンラッドの手が再び移動して、執拗に菊花の周囲や中心を愛撫する。
 ぬっ、と抵抗もなく一本の指が侵入した。中指。第一関節くらいだろうか。浅い抜き差しをされるとからだじゅうに淫蕩な甘さが響き、拭う余裕もなく口端から唾液がこぼれおちる。口端から零れおちた唾液をコンラッドがべろり、と舌で拭った。眼球の奥があつい。おそらく体温が上昇しているのだろう。視界が自然と涙でわずかに揺らぐ。
 視線だけをコンラッドに移す。すると、すぐにコンラッドと目があった。
「指、三本いれますからね」
 やさしい声だ。けれど告げられたことばは、とてもいやらしい。コンラッドの顔も同じだった。やさしいのに、とてもいやらしい。
 ユーリは、ちいさくうなずいた。
 第一関節ほどしかはいっていなかった指は、内壁は徐々に侵入をはたして根本が菊花の入口にあるのがわかる。五本の指のなかで一番長い中指が、一点を掠めて高い声を漏らした。
「ここが、ユーリの一番感じる場所ですよ。あなたの指では届かないところ」
「……はっぁ、」
 言いながらコンラッドは、その一点をぐりぐりと押しつぶす。触れられてもいない陰茎の先から、頬へ滑る涙のように先走りが流れたのがわかった。彼がいつもより、乱暴で意地悪ことも。
 二本目は薬指。長さはないが、内壁への刺激が増した。指の節のごつごつとした形と自分のものとは比べものにならない太さと大きさに、改めて男に抱かれているのだと感じる。
 コンラッドと出会うまえまでは、いつか自分にも彼女ができるということは考えていた。その延長線上に恋人へのステップもあった。けれど、こうして男に抱かれることになるなんて考えもしなかったのに。きっと、それはコンラッドも同じことかもしれない。まさか、同性で一回り以上も年下とえっちするなんて考えてもみなかったはずだ。 
 世の中、わからないものだ。
「どうかしました? 最中に思いだし笑いするなんて心外だな」
 心外と口にするわりには、気にしていないようにみえるが、宥めるようにユーリはコンラッドの額にキスをした。
「あんたのことしか考えてないよ。あんた以外のひととえっちするなんてもう考えられないなって」
「うれしいこと、言ってくれますね。俺も同感です。ユーリ以外となんて考えられない」
 わざと音を立てるキスを、ユーリの唇に返しながらコンラッドは内壁の指、人差し指を増やした。ゆっくりと慣らされたとはいえ、それでも質量が増すと息が詰まった。
 幾度かからだを繋げているから知っている。指三本でもきついがこの男のモノはそれ以上にあることを。思いだして、からだが震えた。
「これからさきも、あなたは俺としかセックスなんてさせませんよ。ペニスを挿れたときに自然に内壁の形ができるくらい、俺とセックスするんです」
 卑猥なことばに頬が熱くなる。同時にうれしさもこみあげて素面では絶対に口にできないことばを返した。
「して。あんたの形を覚えちゃうくらい……これからはもっと」
 もう一度舌を出して、キスをする。数少ないディープキスを思い出しながら、コンラッドの口先を割って、歯並びをなぞり舌を誘うようにつつく。
 すると、すぐに自分より巧みな愛撫を知っている彼の舌が絡んで吸い上げられて、脳の奥が甘く痺れた。深いキスをしながら内壁を犯されてさらなる快感を求めるように含んだ指を締め付ける。
 このまま指で果ててしまうかも、と思った矢先指が抜かれてねだる声が漏れ、コンラッドが喉奥で笑った。
「このままイかせてあげたいんですけど、やっぱり俺のでイってほしいので」
 ひたり、と入口に濡れた感触と熱い存在を感じる。
 ユーリは、長く息を吐き、それにあわせてあてがわれた熱がゆっくりと侵入をはじめた。
「あ、つ……ぃっ」
 爛れてしまうのではないかと思うほどの熱に思わず呟くと「俺のセリフですよ」とコンラッドが言った。
「きつくて、熱くて――我慢がきかなくなる」
 いままで受けてきた拷問に比べものにならないくらいに。
「あっ!」
 コンラッドは囁いて、一気に勃起した陰茎を突きいれた。突然のことに息ができなくなる。
 そのまま体勢を変えられて、シーツに背中がつく。いわゆる正常位に。コンラッドが膝立ちになった状態で抽挿をはじめた。塗り込められた自分の精液と彼の陰茎に纏う先走りで卑猥な音と荒い息、嬌声が室内にたちこめる。なにより、シャツよりも濃く体臭がじわじわと理性を崩していく。
 内壁を擦りあげられる快感にたえられず、ユーリは思わずシーツを握りしめた。
「っあ、たまおかしくなりそ……っ!」
 感じすぎて、涙声になっていた。
「おかしくなりそう、と言いながらユーリも腰を振ってるじゃないですか。……それに、がまんしないでと言ったのはあなただ。ユーリ。我慢しないで、もっと喘いでおかしくなって。……いまから、好きな場所いっぱい突いてあげる」
「う、あ、あ……ゃ、めっ!」
 コンラッドのことばのとおり、腰をさらに引き寄せられると中指で押された部分を亀頭で重点的に攻められて声が高く跳ね上がる。ベッドのスプリングが、ギシギシと音を立てるのが遠くに聞こえる。数回だが、彼に抱かれたことはある。けれど、こんなに思考が朦朧するのははじめてだ。
 コンラッドが、上半身を屈めて顔を近づけた。眉を顰め、苦痛ともいえる表情。が、どことなく自分と同じように甘い表情をしている。格好いいと称される大人の男というものは、こんなときまで魅力的な顔を浮かべることができるのか。自分は、口周りが涎にまみれて、顔は涙でぐちゃぐちゃになっているというのに。
「ユーリ、」
 勃起した触れられてもいない陰茎がいつ爆ぜてもおかしくない、脳みそがぐちゃぐちゃになった状態の自分にコンラッドがはなしかけた。
「っな……に?」
「ユーリ、もっと俺に言いたいことがあったら言ってください。俺はあなたのことを愛しています。だから、どんな願いも叶えたい。あなたの願いならなんでも。ねえ、言ってください」
 この状況でお願いするなんて卑怯だ。自分を押さえるものが緩んでいるこのときに。
 ああ、ほら口が勝手にことばを紡いでいく。身勝手なことばを。
「もっ……と、あまえて。キスもしたいし、そのさきも、したい。がまんもするな。だから、あんたも……コンラッドもおれにしてほしいことがあるなら、言ってくれ」
 恥ずかしいはなし。本当は、もっと恋人らしいことがしたい。遠出や学校の帰り道、公共の場を考えたらいいんじゃないかと思うほど、イチャイチャしている恋人たちをみながら心のなかで羨んでいた。ずっと言いたかった。コンラッドが天の邪鬼の自分を思って配慮してくれたこととはいえ、それでもたまには強引に、と勝手なことを願っていた。
 コンラッドの背中に手をまわす。彼の体温もいつもより向上していて、背中が汗ばみ手がすべった。
「……俺は、あなたに想われているだけで十分です。でもそれ以上を要求していいと言うのなら、叶えてくださると言うなら叶えてください。俺を独占して、束縛してください。俺にもっと甘えて、もっと俺を愛して」
 重いことばだ。いつのときか、クラスの女子が愛情が重い男や女は嫌われると言っていた気がするが、それは本当ではなかったようだ。
 自分に向けられる重いことばがとても愛おしいと感じる。……もしかしたら、自分も重い気持ちを持っている男だからかもしれないが。
 ――まあ、どうでもいいことだ。
「コンラッドのシャツ持ってオナニーするほどあんたのこと好きなのに、もっと?」
 言いながら笑いがこみあげてきて、噛み殺した笑いがからだじゅうを振動する。振動で、また先走りが零れた。
「俺の愛情はあなた以上なんですよ」
 それなら、自分だってコンラッドが思っているよりも、もっとすごい。と、言おうとしたが、開きかけた口は再び自分の嬌声にのまれてしまった。嵩を増した陰茎がぐちゃぐちゃに内壁をかき回したからだ。
 嬌声が断片的になる。溺れそうな快感におちないよう、背中に爪を立てた。首筋にキスマークをたくさんつけたのだから、爪痕のひとつやふたつ残しても許してくれるだろう。
「コンラッド、も……っ!」
 絶頂がすぐそばまできていることを伝えるとコンラッドは「もうすこしだけ」とユーリの陰茎の根本を指でおさえた。
 苦しくてしかたない。が、彼と一緒にと思う気持ちのほうが強く甘い苦痛に耐えながら自分も腰を動かした。その時間は数分だったと思う。けれど、長い時間にも感じた。
 戒められた指が、離されると同時に最奥までコンラッドのものが入りこんで、内壁と腹に熱いものが弾けた。
 荒い息がふたりの間ではねる。
「とてもかわいかったです、ユーリ」
 額に張り付いた前髪を優しくすいて、目尻に浮かんでいた涙をコンラッドが吸い上げてくれ、ユーリは甘えるように表情をほころばせた。


* * *


「――さてさて。そのけだるい表情を見れば結果なんて一目了然だけど、一応聞きたいな。で、ウェラー卿とどうなったの?」
 村田が意地悪な口調で尋ねた。結果がわかっているなら聞かないほしい。ベッドで一日を過ごす自分を見ればなにがあったのかわかるだろう。
 あのあともなかなか互いのからだから熱が引かず、結局外の景色が明るくなるまで、抱きあっていた。終わったころにはとっくに体力を消耗していて、足腰が立たなくなった自分の肢体をコンラッドが清めてくれた。……その途中で寝てしまったのだけど。
 つぎに目を覚ましたのは太陽が空高く昇る昼過ぎ。ノックの音で目が覚めた。
 もしかしたら仕事があったのか。扉の向こう側に、グウェンダルのむっつりとした顔が思い浮かんで頭を抱える。しかも、足腰が立たないからドアに向かうまで時間がかかるし、余計に怒らせるだろうと思っていたが、返事も待たずにノブを回し顔を出したのは村田だった。
 開口一言目が『渋谷、優雅な休日だね』であったからきっとコンラッドが、根回ししてくれたんだろう。考えてみれば、明日に支障が出るとわかっていながら朝までえっちに耽ることも、いまのいままで睡眠をとらせてくれるわけがないのだ。
 村田は、とても楽しそうに寝台に近づくと腰をかけて「はい」とバスケットをくれた。バスケットのなかには、サンドウィッチと地球から持ってきたのだろうポットに紅茶が入っていた。
 そういえば、夕食を摂っていなかったことを思い出して、お腹が鳴る。朝も食べていない。
 遠慮なく、バスケットに入ったサンドウィッチに手をのばして食べ始めたとき村田がさきほどの質問をしたのだ。
「……村田のいうとおりでした」
「それはよかった! で、どんなプレイしたの?」
「はあ?」
 予想もしていなかった返しに、食べかけのサンドウィッチをシーツに落としてしまった。
 ああ、メイドさんに余計な仕事を、と思ったがそれよりもまずはにやにやと笑うこの男をどうにかしなければ。
「なんで、村田に言わなきゃいけないんだよ」
「だって僕の助言があったからこそ、きみたちはアツーい夜を過ごすことができたんだ。それに僕はスタツアするまえに言ったはずだよ、根に持つタイプだって」
 根に持つというかからかって楽しんでるだけだろ、この場合は。
 喉元までのぼることばをサンドウィッチで押し込む。これは今回のスタツアするまえと同じだ。
 村田はちゃんと答えるまで部屋を出ない。
「わかったよ」
 サンドウィッチを完食して、ユーリは村田のことばに応じることにした。
 ふたりの視線があうと、村田が微苦笑した。
 彼が笑う意味を、ユーリは知っている。
「渋谷、うらやましいくらいしあわせそうな顔してる」
「いまからいっぱい惚気てやるから覚悟しておけよ、村田。途中でギブアップはなしだからな」
「はいはい」
 なんてやりとりをして、はなしに夢中になり仕事から戻ってきたコンラッドが扉の向こうで聴き耳をたてて、笑っていたのに気づきユーリが雄叫びをあげるのは数分後のはなし。


END


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