■ 7

 お互いの服はもうなく、汗ばんだ肌が吸いつくように触れあう。
 キスを繰り返した唇が、離れたかと思うと、それはおれの右耳へと移動した。彼のふしばった薬指が耳裏を撫でたかと思うと耳を挟むように耳殻に薄くて熱をもった口唇が押しあてられて、ぶるり、と体が震えた。
「耳、弄られると気持ちいいでしょう?」
「……んっ」
 どうして、耳かきしてもこういう快感がおとずれたりしないのに、コンラッドが少し触れるだけで、こんなにも大袈裟ともいえるほど感じてしまうのか。熱い息を吹きかけるだけで体中が痺れてくる。無意識に彼の顔をそこからずらそうと手を伸ばしても、コンラッドはそれを受け入れようとはせず、反対に耳全体を甘噛みしたりしてさらなる快感をおれに与えてくる。
「ほら、逃げないで。勉強するんでしょう。ちゃんと授業を受けなきゃ、だめですよ。……耳はね、第二のクリトリスと言われるほど強い快感を与えることができる場所なんです」
 卑猥な言葉を投げつけられて、頬が熱くなる。本当にそういう知識をどこから覚えてくるのやら。
 眞魔国にはエロ大辞典でも存在しているのか?
 いやらしい先生きどりのコンラッドはわざと唾液を舌にたっぷりと絡ませてくちゅくちゅと水音をおれの耳のなかにもぐりこませてくる。それだけで、また興奮が煽られて下肢の中心が熱くなってくるのを感じた。
 それをコンラッドも察したのか、空いているもう片方の手をおれのからだを滑らして、熱く立ち上がる先端を人さし指で擽る。
「ゃ、あ……っ!」
 それから、先走りが滲み始めているそれをコンラッドは大きな手の平で全体にのばして強弱をつけて扱き始めた。すると自分でも驚くほど甘い嬌声がこぼれおちた。
「ユーリ。声、殺しちゃだめだからね?」 何度、彼をからだを重ねても自分が自分でないようなこの声には羞恥を感じて、反射的に口を自分の甲で塞ごうとすれば、先読みしたコンラッドに指を二本口内に差し込まれた。しかも、その指でおれの舌を挟むとぬるぬると動かして弄ぶ。閉じることの敵わなくなった口の端からは唾液が頬を汚す。
 そんなおれをみてコンラッドは楽しそうに「かわいいね」なんて言ってくれるが、おれにはまったく理解不能だ。べたべたに口まわりを涎で汚して、生理的にこぼれおちてくる涙のせいでぐちゃぐちゃになったおれの顔のどこがかわいいというのだろう。やっぱり、魔族の美的感覚は地球人にはわからない。
 耳と口内と性器の三つの刺激に敏感な箇所を執拗に愛撫されて、はやくも限界を感じて、無意識におれは太ももを擦り合わせて下肢を弄る彼の手を挟む。けれど、それだけではコンラッドはおれを絶頂には導いてくれない。
 いつもは温厚なくせにこういうときだけは、やけに意地悪だからだ。それは嫌だなと思う反面、おれを求めてくれているんだと思うと単純にうれしいと思う自分は相当、コンラッドが好きなのだろうなあ、と感じてしまうから、おれもどうしようもないんだけど。
 視界のけぶるなか、コンラッドに視線を合わせるとすっ、と口内から指をひいてくれた。自分以上におれ自身のからだを知っている彼にはなにを望んでいるのかわかっているからだろう。
 口内に溜まった唾液をおおよそ飲み下すと、飲み込み切れなった唾液を舌に絡ませながらおれはコンラッドに強請る。
「っ、もう……」
「イかせてほしい?」
 その言葉にいちもにもなく、こくこくと首を縦に振った。
 途端に幹をスライドする手が早くなる。
「……今日は、ユーリからキスしてくれたしね」
 イかせてあげる。
 コンラッドは、尾てい骨を震わせるような低い声を耳元で囁いた。必要以上に色気を纏ったその声音に鼓膜が震え、がぶりと耳朶を噛まれたときには、おれは彼の手のなかで精を吐きだしていた。
 久々の行為だからか、射精はいくらか断続的で手のひらからこぼれるほどだ。絶頂を迎えて一瞬手放していた理性が戻り、その事実を理解するといいようのない恥ずかしさが胸のなかで踊る。
「味が濃いね。久しぶりだからかな。ユーリの味がする」
 受け止めた手を、下肢から離すとコンラッドはそれをおれに見せつけるように舐めた。
 うう、本当にはずかしい。
 そう思うのに、あまりにも妖艶な仕草に目が離せない。妖しく光る瞳にだんだんと周りが見えなくなってくる。
「ユーリも舐めてみる? とても美味しいよ。自分の味を知るのもひとつの勉強ですよ」
 否応なしに、口元に濡れた指先が近づく。
 こんなの美味しくないし、勉強でもなんでもないと頭では理解しているはずなのにすでにおれは口を開けて、舌を彼の指に這おわせていた。
「どうです? 美味しいでしょう」
 おれが顔をしかめているのに、コンラッドはそう尋ねてくる。彼の精液ならまだしも、自分のものなんて苦いとかまずいとしかいいようがないのに。悪態をつこうにも理性が普段のようには追いついてこなくて、言葉が出てこない。
 横に首を振ればコンラッドはおかしそうに笑った。
「あれ、おかしいですね。あなたのものは甘く感じるんですけど」
 ほら、と再び淫靡な表情で残滓を舐めあげると、またその手を下肢に伸ばした。今度はさらに奥。後腔に。彼の手のなかで受け止めきれなかったものがすでにそこまで流れ落ちているのか入口をくるり、と撫でられたあと、浅い部分に中指を挿入された。
 排泄器官でしかなかったそこがコンラッドの愛撫で性的快感を覚えてしまった箇所のひとつだ。おれの意思に関係なくそこは彼の指を締めつける。
「ユーリ、もう少し緩めて。でないと奥まで愛してあげられない」
 くぷくぷと入口部分を擽るように中指が動く。手も蕾も濡れているとは言えもう数日間もこうして触れあっていなかったからか、おれのからだはコンラッドの指を奥まで受けつけない。浅い部分を抜き差しされるともどかしいような刺激に腰が勝手にゆるゆると蠢いた。
 なんかおれ、淫乱みたい。
 止めようにも、止まらない腰の動きに戸惑えば、頭上からコンラッドが喉奥でくつり、と笑うのが聞こえた。
「からだはだんだんと学習しているようですね。……ここがどんなに気持ちがいいのか、知っているようだ」
「いうな……っ!」
 恥ずかしい言葉に耐えられなくて、コンラッドを睨みつけてみる。けれど、彼は楽しそうな笑みを浮かべたままだ。それが、怖い。一体なにを考えているのかわからなくて、怖い。おそらくは、変態的行為を考えているに違いないけど。
「あなたからしてみれば、睨んでいるのでしょうね。けれど、こちらからすれば煽ってるようにしか見えないんですよ。生憎、俺もできた男ではないので、嗜虐的思考が頭を擡げてしまう」
 加減ができなりそうですよ。と、言うがはやいかコンラッドの顔が胸の突起へと近づいて、くにり、と左胸の乳首を柔く噛まれた。
「あ、あっ!?」
 そのまま引っ張られて小さく痛みを感じる。食まれると同時に勃起している下肢のくびれを愛撫されて、またそこに熱が集まり透明な液が彼の手を汚したのがわかった。
 痛みが快感へとすり替わる。
「痛いのも気持ちがいいでしょう。また先走りが溢れてきましたよ。……ほら、指が奥まで入った。わかる?」
 再び先走りで濡れた指が後ろへと宛がわれて、今度はなんの抵抗もなくそれを奥まで飲み込んだ。内壁をぐるり、と蹂躙されてある一点を掠めたときからだがいままでにないくらい跳ね上がった。
「ひ、ぁ……っ、そこは……!」
「前立腺ですよ。あなたが一番悦ぶところの名前です。覚えてくださいね」
 覚えたところで今後なんの役に立つんだよ!
 集中的にそこを刺激されて、息もままならない。おれは、未だに左右の胸の突起を愛撫しているコンラッドの肩に力の入らない腕をまわした。なんでもいいから、この強すぎる快感から逃れたくて、彼に縋りつく。
 内壁を弄る指はいつの間にか、増えて二本ばらばらに動かされて、意味をもたない嬌声が次から次へと喉をついた。 
「かわいらしい声ですよね、あなたの声は。その声といやらしい表情を見ているだけで俺のペニスもさらに熱を持つんですよ」
 知っていました?
 コンラッドは言うと肩を掴んだおれの手を片方外すと熱を持っているという下肢へとおれの手を導いた。隠す布もないそこは腹につくんじゃないかと思うほどに角度と質量を誇っていて、触れた亀頭は濡れていた。
 よくもまあ、恥ずかしげもなくあまやかな笑顔でこのようなことができるやつだ。おれには絶対に無理だ。ポーカーフェイスを貼りつけるコンラッドの代わりにおれの頬がまた熱くなる。
「ユーリの手で俺のものを慰めてください。相手を気持ちよくさせるのもセックスのマナーですよ」
 いつものセックスならコンラッドはこんなことを言わない。きっとこれも、一段階レベルアップするための勉強なのだろう。自分だけが気持ちよくなるのは、おれも嫌だし彼のお強請りにおれは小さく頷いた。
 コンラッドがしてくれる手淫を思い出しながら手を上下にスライドさせる。時折、くびれや先端を集中的に愛撫をすれば、徐々に彼の先走りで手のひらが濡れるのを感じる。恥ずかしいと思う反面、濡れて手淫が滑らかになるそれが、コンラッドもちゃんとおれの拙い愛撫に感じてくれるのかと思うとうれしくてさらに快感を与えてあげたいと手に力がこもる。
 すると、彼が小さく息を詰めたのが聞こえた。
「……お上手ですよ。とても気持ちがいいです」
「だろ? ……おれだって、やればできるんだよ」
 上擦った声に、思わず強気な発言をしてしまう。おれだって、やられっぱなしではないんだと、コンラッドと同じように挑発的な笑みを浮かべたが、しなければよかったと思うのはそのすぐあとのことだ。
「……っあ!」
 コンラッドの傷痕のある眉が器用につり上がったかと思うと、後ろに差し込まれた指はまた一本勢いよく突きこまれたのだ。弄られて、襞が緩んでいたとはいえ、太さを持つ男の指に息が詰まる。
「ユーリは、そういう強気な発言と挑発的な笑顔も男を十分煽るものだって覚えておいたほうがいいね」
 内壁で指を鉤状に曲げられて強烈な刺激がからだを襲い、二回目の射精感が突き抜ける。だけど、意地の悪い彼の指に根本を押さえられて吐きだすことが叶わないおれは歯を食いしばった。
「指が三本入りましたよ。ああ、内壁がすぼまって指に吸いついてくる。しかも、奥へと誘っているようだ」
「うるさ……っん、ふ……」
 なかをかき回される。
 こいつ本当に大人げない!
 強い快感に奉仕をする手が止まり、目を開けているのすらままならない。くちゅくちゅと響く水に頭がおかしくなりそうだ。気持ちが良すぎてつらい。
「そろそろ復習しましょうか、ユーリ。ここになにが欲しい?」
 毎回のように強請られる言葉。それがなんであるかおれは知っている。だが、慣れない。恥ずかしくてあまり口にしたくない。なので、かわりに力の入らない手で再び手淫をしていたそこを握った。
「んっ、これ……」
「それだけじゃ、ユーリの欲しいのあげられないよ。先生は厳しいから」
「いじわる……っ」
「意地悪ですよ、俺は。でもその分、あなたが口にしてくれたことはなんだって叶えてあげる」
 この典型的ないじめっ子め。ささやかに腹黒さとドエス精神が笑顔から零れおちている。むかつくとは思うけど、こうしているときの彼の顔はこどものように無邪気だ。こういうときに我儘を口にするくらい許してもいいかな、なんてと考えてしまう。
 まあ、意識が飛びかけて忘れていたが、当初の目的はコンラッドの小さな独占欲を満たしてあげることだ。
 おれは意を決意して顔を彼の耳元に近づけた。
「あんたの、ちょうだいっ。……なかに入れて、めちゃくちゃにして」
 意を決意した割には声はかなり小さかったが、ちゃんとコンラッドには聞こえたらしい。頬を掠めるキスがおちて、後腔に挿入していた指がゆっくりと抜かれ、代わりに熱いものがあてがわれた。
「よくできました。ユーリのお願いちゃんと叶えてあげますよ。あなたが欲しいものをここに入れましょうね」
「あ、あっ……」
 入口がだんだんと大きなものを飲み込んでいく。
「めちゃくちゃに、してあげる」


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