■ 枕が濡れても気づかないでね


 ――自分は思っていたより、貪欲な人間だったのだとコンラッドに出会って気がついた。
 この世界に来て、どんなときだってとなりにいて不安と恐怖に押しつぶされそうになったときも、楽しいときも彼がいつもいてくれた。
 だから、勝手にいつまでもコンラッドは自分のとなりにいてくれる存在だと思っていた。
 けれど、そうではないとコンラッドが突然、姿を消して、剣を向けられたときようやく理解した。
 剣とともに鋭いことばが向けられて、自分はコンラッドに甘えていたんだとも。
 あのとき向けられたことばを彼は『あれは嘘です。俺がこの身をかけて一生仕えたいと思うのはあなた、ユーリしかいません』と言われたが、それでもああして離れるまで自分は甘えていることにも気がつかなかったし、王であること、その責任の重さをわかっていたようでわかっていなかったことを思いしった。
 だから、コンラッドが自分が『王様でよかった』と思えるようなひとになろうと決意した。
 なのに、いざ彼がふたたび帰ってくると、自分の意思の弱さに嫌気がさす。
 コンラッドが帰ってきた。それを喜べばいいのに、喜べない自分がいたのだ。帰ってきたなら、以前のようにとなりにいてくれたら、なんて思ってしまった。ぎくしゃくする原因がわかっているのにも関わらず、そう考えてしまう自分が情けなくて、必死に平静を余所っていたけれど、よく周りから『ウソが下手』とか『思っていることが顔に出る』と言われる自分。取り繕っているのは周囲には気づかれていたようで。
 まあ、気づかれたというよりはぽろり、とヨザックや村田に弱音を吐いたことにより、コンラッドとのぎこちない関係は急展開をみせた。それだけではない、ヴォルフラムはコンラッドに直談判しに向かってくれたとあとになって聞いた。
 三人のおかげで、コンラッドとのちゃんと向き合うきっかけを与えてくれたのだ。
 そうして、互いに胸に秘めた思いを伝え――いまは、ヴォルフラム、村田。それからコンラッドとの四人でベッドで横になっている。
 わがままを言ってはいけない、と決めたのに。
 ……やっぱりだめだ。
 ぽんぽんと掛け布団のうえからあやすように優しく叩かれなにより『どんなことでも聞いてくれる』という彼のことばにどうしても甘えてしまった。
 ずっとそばにいてよ、と言ったことに対して『ずっとそばにいます』と言ってくれたことがなにより嬉しくて。
 有利は『おやすみなさい、ユーリ』と囁かれた声に寝た振りをして、枕に顔を埋める。
 コンラッドがそばにいなかったときは、いつもだれかがそばにいて、自分を励ましてくれた。なのに、やっぱり違ったんだと思い知らされる。
 ずっとずっと恋しかった。彼の存在がなによりも恋しくて、これからはずっとそばにいてくれる。
 それがなにより嬉しくて、有利は寝た振りをしたまま枕に顔を埋める。
 そうして、じわじわと胸の奥からなにかがこみ上げて同時に枕が濡れていくのを感じた。
 ……眞魔国におかえりなさい、コンラッド。
 そして有利はコンラッドには気づかれないよう、もう一度、心のなかで呟き、彼が帰ってからさらに貪欲な感情が自分の胸のなかで成長していくのがわかった。
 もう、となりにいるだけは足りないことを。

END
(title あくたい)

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