■ 濡れたままの黒髪
コンラッドが悪い。
と、思うのは責任転嫁かもしれないとは思うもののそう思ってしまうような行動をあの男がするのがいけないのだ。
もう自分は十六歳。高校一年生。もちろん、中学校では立志式もすませている。立志式というのは、おとなになる自覚を深めるという行事。いわずもがな、大人になるということを自覚し、ひとりだちを意識するするようにというもの。
自分でできることは自分でしなければならない。身の回りのことであれ、感情の整理など、ひとに頼らず自分で解決しなければいけないということだ。
それでなくとも自分はまだ未熟なへなちょこではあるものの一国の主でもある。人一倍、大人を意識し行動しなければいけない。と、思うのにコンラッドが自分を甘やかす。
よく言えば気がきく。悪く言えば過保護なコンラッド。地球生まれの自分は異世界でのルールなどよくわかっていないところもあり、彼の手助けがなければことが進まないところはもちろんある。けれども、それ以外のことでもあれこれと世話を焼いてくるものだから、いつの間にかコンラッドがやってくれることがあたり前だと思うようになってしまっていた。
「ゆーちゃん! 髪の毛びしょびしょじゃない! もうっ! 早く乾かしなさい!」
なんて、この歳になって小言を言われしまったのはどう考えてもコンラッドのせいだ。
いつだって、自分がやるよりもさきにコンラッドが手を差し伸べ、自分でやるよといえば寂しそうなかおを見せ、反対に彼の思うままに身をまかせれば至極幸せそうにコンラッドが笑うから。まあ、いいか、なんて思ってしまっていて。
「……コンラッドのばか」
言われるまで自分の髪の毛がびしょびしょだったのを忘れていたことがはずかしい。
有利は、自室に戻りベッドのふちに腰をかけぽつり、と悪態をつきながらゆっくりとあたまに被ったタオルで濡れた髪を拭く。
そう、よくよく考えてみればこの歳になってだれかに髪を拭いてもらうなんておかしいことなのだ。こんどからは自分で髪を拭こうと思いながらも、あたまの片隅にはコンラッドのかおばかり。
「ああ、もう。ほんとにあんたのせいだ」
自分で髪を拭くのがひさしぶりだと感じてしまうのも、どこかさびしさを感じてしまうのも全部、全部、コンラッドが悪い。
こんどからは、と言いながらもおそらくあちらの世界に戻ったらきっと……なんて思う自分がいて、有利は風呂上がりだからではなく、あつくなった頬をだれがみているわけでもないのにタオルで隠したのだ。
END
(title リリギヨ)
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