■ ううん、ただちょっとせつないだけ
この世に生を受けて、もう数百年が経つ。
経験豊富とまではいかないとしても年相応に遊びもしたし、だれかと付き合い肌を重ねたことも数えきれないほどある。
けれど。
そんな自分は本当の『恋』や『恋愛』をしたことがなかったのだろうと、ここ最近で思うようになった。それを気づかせてくれたのは、目の前にいる少年―ユーリと出会ってからだ。
ずっと一緒にいたい。彼の役に立ちたい。彼に喜んでほしい。笑ってほしい。そう思う気持ちが庇護からではないのはいままで感じたことのない様々な痛みや喜びを感じるようになり、ユーリの一挙一動に注目している。
なにより、自分以外のだれかをいちばんに考えたり、自分の欲求が抑えきれなくなることなどいままでなかった。
さきほどもそうだ。
もうすぐ地球では学校でテストがあるからと勉強のためにユーリがあちらに帰る間際。魔王専用大浴場に見送る際に不意に彼が尋ねた一言に、内心動揺してしまった自分がひどくはずかしい。
「コンラッド、どうかしたか?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
返せば、彼は怪訝そうなかおをみせたが一緒に地球へと帰る大賢者に「そろそろ行くよ」と促され彼はそれ以上尋ねることはしなかった。
「すぐ帰ってくるから」
「ええ。あなたのお帰りを心よりお待ちしております」
繋いでいた手がぎゅっと一度強く握られ、それから離れていく。ゆっくりと冷えていく温もりを逃がしまいとコンラートは拳を握る。
どうかしたか。なんて言えるはずかない。
言ってどうにかなることではないし、もしかしたら彼は呆れるかもしれない。いや、信じてもらえないと思う。
離れるのが、さびしく、切ないのです。
なんて。
ユーリに会って、恋をして、恋愛をして初めて知ったのだ。だれかを愛するとこうも恋しくて胸がせつなく傷むのを。
少年の温もりを手放さないようにと握りしめた手はもうすっかり冷えて、コンラートはそっと眉毛を下げた。
「……はやく、帰ってきてくださいね」
END
(title リリギヨ)
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