■ みんな君を抱きしめたいと思ってる

「コンラッド、かわいい」
 言って、コンラッドに抱きつくと彼は困ったように笑う。
「かわいい、なんて言うのあなただけですよ」
「そう? だってツェリ様も言うよね?」
 問えば「あれは彼女のあいさつのようなもので、そこに意図はありませんよ」と言う。
「こうやって抱きしめたりするのも、あなたぐらいだ」
 彼は言いながら、おれの背中に手をまわして小さく笑った。けれど、こうして笑ったり軽口を叩くもその声音のなか、わずかに寂しさがあるような気がした。
 まあ、こうして抱きついたり、格好いいと称される彼に対しかわいいと言うのは自分が彼の恋人であるということもあるだろうが、それだけはないことをコンラッドは知らないのだろう。
 抱きしめたいとかわいいと愛おしいと思うのはおれだけではないのだ。
 みんな素直にくちにしたり行動にしないだけだとおれは思う。
 年をとれば自然にスキンシップが少なくなる。
 現におれだって勝利に抱きついたりはしないし、格好いいなと思ったことがあってもそれをくちに出すことはない。
 しかし、年をとったから、とそれはコンラッドの場合ひとつの要因に過ぎないことだろう。人間と魔族の間に生まれた混血児だからいう理不尽な理由で人間からも魔族からも疎まれた過去があると聞いたことがある。それで仲が良かったグウェンダルやヴォルフラムとのあいだに亀裂が生じたということも。
 いまはもう、互いに生じていた誤解や蟠りも解消されたとはいえ、一度心についた傷はそう簡単に癒えるものではない。傷口がふさがったとしても痕は残る。
 コンラッドは過去のことをもう過ぎたことです。と言うけれど、気持ちが整理できただけで、なかったことにはならない。
 過去のことをおれは聞くことしかできず、見ても感じてもいない。実際になにがあったのかすべてを知ることはできない。だが、そんなおれでもわかる。
 過去のことに後ろめたい気持ちを抱いているのはコンラッドだけではないこと。同じ時間を生きてきた、コンラッドの大切なひとたりもまた感じているんだってことを。
 なあ、コンラッドのことみんな大好きなんだよ。
 格好いいと思ったりかわいいと思ってるひといっぱいいるんだよ。もっといろんなはなしをしたいって思ってる。抱きしめたいって思ってる。
 でも、それが言えないだけなんだ。
 コンラッドの寂しそうな笑顔を見るたび言いたくなるけど、それを言ってもあんたは信じてくれないから、そこまで受け入れられるほど傷は癒えてないから言わないけど、みんなが言えない分、おれが言って、行動してるんだ。
 みんなが抱きしめたいと思っている気持ちも込めておれがあんたをたくさん抱きしめるから、いつか伝わるといい。
 おれの好きにはたくさんのひとの気持ちも一緒に乗っかっているってこと。
「コンラッド、大好き」

END
(title everlasting blue)

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