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「主人公のバカ!馬鹿主人公!針千本飲んで足の小指ブツケテ死んじゃえェ!!」






「…………………はぁ」



突っ込みどころ満載な罵声を残して外に出ていってしまったムジュラに
代わりに溜め息を送るがもはや誰にも聞こえてはいないだろう

一気に太陽は沈みきって冷たい空気が漂うが
主人公に焚き火をしようという気は起きなかった

主人公はただ意識の無い勇者の影を見て
彼が倒れてしまったその理由を考えた

汗ばんだ額と苦しそうな表情は本当に人間のように見える




(人間か…砂漠の暑さで熱中症にでもなったのかしら)









「……熱中症?」




主人公は頭の中に浮かんだ言葉を声にも出してみた

するとどうだろう
段々勇者の影が本当にそんな症状に悩まされている人間に見えてくるから不思議だ




「まさか、ね…いや………勇者の影、もしかして」


主人公は二、三度頭を横に振ったが
漸く勇者の影のすぐ近くに来て顔を覗き込んだ


酷い汗の量と蒼白な顔(いつものことだが)
脈が若干弱く体温が低い


熱中症の人間に見られる症状のようだった





「…まさか、まさか」





確かに目の前の男は人ではない
そのことは主人公も分かっているし勇者の影も自覚している

動物の凶暴化によって生まれたモンスターとは違い
勇者の影は魔王の力によって生み出されたということから判断すると非生命体に分類されるのではないだろうか


だが今の勇者の影は
限りなく人に近い生態になっている

というよりも


主人公と出会った当初と比べて
勇者の影が人間に近づいてきている
とは言えないだろうか





(そんな馬鹿な!)




不確定ではあるが妙にまとまった結論に達した
しかし主人公は直ぐに反論を並べた


(魔物だって熱中症くらい…、ムジュラだってあんなに人間くさいし)





主人公は口元に指を添えて勇者の影を見下ろした

不死身にさえ思えた勇者の影もムジュラも
旅の流れがよくなりかけていたこのタイミングでそれを遮るように弱体化した

何故いつも
自分の旅は上手くいかないのかと主人公は一人唸った


勇者への手がかりが掴めず苦労し
度々モンスターに襲われ
ゼルダに会いに城に入るだけでも兵に追い掛けられ
影の世界にも簡単には入れず
毎日煩くて我儘な奴の世話に疲れる羽目に




「そんで影の世界に行けるとなったら…勇者の影は反対してくるし」




気苦労を数えていけば限りなどなく
そしてその原因を探っていけば
大体の旅の障害が勇者の影とムジュラに因るものだと気付く


何故

自分はこの二人と旅をしているのだろう










「勇者の影…、ムジュラ」






魔力を失った呪いの仮面


人と化す影の魔物





尚も彼らと旅を続けていく意味を

主人公は考える気も無くなっていた








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