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「ムジュラ?」



自棄に静かだ

砂漠に生物が居ないということを抜きにしてもやはり静かすぎると主人公は感じた

それというのも
今まで散々に泣き続けていたムジュラの叫びが止んだことが原因のようだった





ムジュラはおとなしく小屋の隅の方で
できるだけ身体を小さく見せようとするかのように丸まって主人公に背を向けていた



「ムジュラ、寝た…の?」



それなら静かになって然るべきだと
主人公も壁に身を寄せて肩の力を抜いたとき

ムジュラが控えめに寝返りを打って主人公に弱い視線を投げ掛けた




「…ボク、……ムジュラ」



「…え?」


「ムジュラ…じゃナイと、ダメ…なのに」


「…な、に言ってるの?」


ポツリポツリと
止みかけの雨の粒のように小声でそう呟く

ムジュラの言うことの意味が一つも理解できず
とにかく首を傾げた主人公を
ムジュラは瞬きもせずじっと見つめた

主人公はその緑色の目に対して何をしていいのかと気まずさを感じて

外の様子を見てこようと立ち上がると
ムジュラはその彼女の動作に過敏に反応して素早く起き上がった



「行かないで、主人公」



今度の言葉には理解できるものがあり
素直に足の動きを止めるとムジュラが慌てて近寄り主人公の腕を掴んだ



「行かナイで…」


「わかった、行かないから」


段々と涙の色を含み始めたムジュラの声に慌て
目線を合わせようとその場に座り込むと有無を言わさずに主人公は抱き締められた




「…む、ムジュラさん?」



やはり何処か様子がおかしい
おとなし過ぎるというか
か弱すぎるというか

単純に孤独を恐れる小動物のようだが
まさかこのムジュラのそんな姿を拝む日が来ようとは
全くそんな心の準備などしていなかった主人公はなすがままにムジュラの言葉を待ち惚けた




「主人公、ボク…」


「ん…?」



「ボクね、…魔法が」


「……」



「もう、力が、無いんダ」



「……」






数秒の静寂の後

主人公はガバっとムジュラの腕から離れて彼の顔を見てまた静止した





「え!?」



「…ぅ、っ…だって…アイツが」



段々と俯き大粒の涙を零し始めたムジュラを主人公は見続けた

彼女の目の前に居るのは
曰く魔法が使えなくなったムジュラだ



「…本当に本気で、使えないの?」



ムジュラは嗚咽を押さえながら小さく頷き
恐る恐る主人公の顔を見上げた




「ボク、…要らなく、なった?…主人公、ボクが要らナイ?」



ムジュラは頻りに訴え掛ける


しかし主人公は無言だった



彼女の紅い瞳がムジュラから別の何処かに反らされそうになると
ムジュラは再び彼女の腕を掴んだ



「主人公?、ネェ…っ主人公…?」




「…今日はもう休もう、明日も、きつい旅になりそうだし」



主人公の腕はするりとムジュラの手を抜けていく

背を向けて横たわる勇者の影の方へ向かう彼女の姿が
何かで滲んで見えなくなると
ムジュラは目を堅く瞑ってあばら家から走って出ていった


去り際に彼女にぶつけた罵声の言葉は自分でもよく聞こえないものだった







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