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思えば黄昏時というのは良い印象が無かった

主人公に言わせれば
とにかく悪い事柄の始まりを示唆する空の色、としか認識できないものだった

黄昏時に彼女の旅は始まった、それだけでなく
魔王の復活を知ったのも、影の魔物に襲われたのも

これから世界が暗闇に沈むことを知らせる夕暮れのこと




そして今

何の為にか
勇者の影が力無く倒れていく砂上も
黄昏の為に熱く輝いている




「勇者の影!?」




主人公は必死の力を行使して
彼女にまとわり付き泣きじゃくるムジュラを引き剥がす

そのまま泣き続けるムジュラの声をBGMにしながら
主人公は勇者の影の脱力した身体を持ち上げ何度も呼び掛けた



「勇者の影、どーしたの!勇者の影!?」



身体を揺さ振ろうとするも
自分よりずっと男らしい身体を支えるだけで精一杯な主人公は
転びそうになりながら周囲を見回し
何処か休める場所はないかと視線で探させた



(勇者の影の身体すごく熱い…っ)


幸運にも砂漠の処刑場の前には何年も前のキャラバン跡が残っていた

主人公は勇者の影の体を引きずるように運び
キャラバン奥の小屋の中に寝かせておいた

次いで主人公は
未だ同じ場所で内容の伝わらないことを叫びのたうち回るムジュラも
勇者の影と同様に引き摺り運んだ

その最中にも「あの女」とか「あのメス」とか「俺様はムジュラだ」とかいう系統のことを疎らに繋ぎ合わせて叫ぶムジュラだったが
もともと意味不明なムジュラの言動に慣れてきていた主人公は大して気にしなかった




「日が沈む…わ」



あばら家の中にムジュラを投げ込み
自身の疲れもピークに達して
主人公はその場に勢い良く倒れこんだ

疲労感 疲労感

その他に今日の間に得たものといえば
ガノンドロフが予想以上に危険で脅威になり得るということと
影の世界へ行く為の手段




「……まぁ、収穫はあったのかな」


主人公は重い身体をノロノロと動かして勇者の影に近づいた
そして意識の無い彼の手に握られているものを自分の手のなかに戻した

先程勇者の影に取り上げられた白いメダル

大妖精から授かったものだ
このメダルを鏡の間で使うことで影の世界に行くことができるらしいのだが
果たしてどこまで信用できる話なのかはやはり主人公にも分からない



しかしそんなことはまだ問題ではなかった


影の世界に行くこと

それ自体が問題になっていた


最初は砂漠の異変にリンクへの手掛かりはないかと思い目的地をそこと決めた
しかし主人公は影の世界へ行くのを諦めたわけではなかった
だからこそ黄昏時のハイラル平原では影の世界への入り口を探したし
大妖精の交換条件も飲んだ

例え影の世界に勇者は居ないのだと言われても
やはり主人公は行くつもりだった



(そーいえば、あれから何も言ってこない…)



主人公は自身の右手に視線を落とした
今はその手の甲には何も浮かび上がっていない
色ももちろん人間の肌の色だしこんなところから人の声が聞こえてくるなんてのも普通は考え付かない

だがそれは確かに今まで起こっていたこと

そして主人公はその声が必死に影の世界へ行くことを止めようとしていたことを思い出した





(私に見せたくないものでも…あっちの世界にあるのかな)





日が大きく傾き

夜が来る



いつの間にか泣き声は止んでいた








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