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「ネール!」


ディンは光の神殿内を駆けた
わざわざ走らずとも目的の知恵の女神が光の間に居ることは明白だったし
わざわざ叫ばずともネールは彼女の声を聞き取っていた

しかしディンは走らずにはいられなかった





「どうしたのです」



ネールは穏やかな響きで力の女神に答えた




中央に据えられたトライフォースの為の器

ハイラルにいる主人公たちを見張る鏡
かつて時の神殿と繋がっていた扉

何もかもが白色を極めているその光の間で
いつものように高い椅子に腰を掛けるネールの蒼髪が映えて見える




「フロルが居ないんだ!」


ディンの怒号にも似た叫びは
広いその空間に反響し

ネールは目を細めた



「それは…―」


「ネール、やっぱり鬼神の元へ行こう…あの男、…完全に消してやる」



ネールの言葉も半ばに遮り
ディンが穏やかではない言葉を紡ぐ

力の女神は相当に怒りを溜め込んでいる様子で
腕や赤髪を炎に変質させて白い空間ほの赤く染めた



しかしネールは目を伏せて
首を左右に振るだけの動作をした




「荒らぶる神…私達の力ではとても」


「でもフロルは…鬼神の元に行ったかもしれないってのに…!」


制止の言葉に応じず
なかなか聞き分けようとしないディンの態度に
ネールは段々と苛立ちを募らせていった



「今大切なのは、神をこちらに導くことです」



ネールはディンとの会話に見切りを付けて自身の右手の甲を目の前にかざし始めた

それを見てディンは更に動揺を増して
高い席のネールを見上げた


「また神と話すのかよ」



指摘する声にネールは鋭い視線を走らせた



「そうです…それが何か」


「深く接触してはいけないと言ったのはお前だぞ!」

「…落ち着きなさい、力の女神として…力を暴走させるのは恥だと思いなさい」




ディンの耳にはネールの言葉の半分も入っていなかった

ディンは両腕を前に突き出してネールの座る椅子を何の前触れもなく燃え上がらせた



「っ!!お止めなさい、ディン!」




「オレには何も分からないと思っているんだろ!?知っているぞ、ネール!お前は…オレもフロルも消えればいいと思ってるんだ、違うか?」



「何を言って…」



「そして自分だけ神に取り入ろうとしている…そうだろ?オレには分かる!」



冷静さを欠いて火球を乱射するディンの攻撃を避け

ネールは静かに目を見開いた



「愚かな力よ…」







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