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ずっと肌に感じていた浮力が無くなり、自分の足が砂の上に降り立った音が聞こえると
主人公は眩しさに閉じていた目を開いた


(大妖精も…魔法使えるんだ…、ソル、自分で持って来れないのかな)


主人公はたった今大妖精の魔法を体感してふとそう思った

この世界に魔法の類を使える生命体は少ない
その大体は精霊や妖精の癒しの魔法ばかりだ
王女ゼルダもその嗜みはあるらしいが主人公に見せてくれたことはない

そして主人公自身も魔法のようなものを操れるが
自然物の操作や生成くらいしかできない上に
今一その原理も使い方も把握できていない



当然のように見過ごしていたが
ムジュラの魔法はとても幅広い

物質操作、事象の消滅、瞬間移動、属性攻撃…
よくは分からないがとにかく何でも出来てしまいそうなほどだ



(ムジュラって実はすごかったんだ)


ムジュラの姿を再確認しようと周囲に目を向けてみると
そこは元の砂上炎天下の景色ではなく、砂漠の処刑場前に張られた無人のキャラバン跡地だった
大妖精の魔法が無事にそこまで運んでくれたらしい



「どうせなら鏡の間に運んでくれたらよかったのに」


巨大な建物の上層を見上げていたとき
光の筋が地面から差し込み、主人公と同じようにして勇者の影が現われた


「あ、勇者の影!」


主人公は無造作に散らばる建物の瓦礫に気を付けながら勇者の影の元に駆け寄った

しかし勇者の影は険しい顔つきで主人公の肩に掴み掛かり
噛み付くように問いただした




「貴様、何故砂漠に来たか、その理由を覚えているか?」



「ぇ、と、っそれは…砂漠で光るものを見たから」


「そうだ、砂漠の異変を知ったからだ…影の世界に行くためではない!」



勇者の影は主人公の手から白いメダルを奪い取った

主人公は慌てて取り戻そうとするが勇者の影は軽々と彼女の手を避けた
主人公は砂に足を取られて転んだが、砂の熱さに反射的に起き上がった




「あづ!っ…当初の目的とか、どうでもいいのよ!要はリンクが見つかればね」


「現に砂漠にリンクは居ない、魔王の罠だったと言われただろう」


「でも影の世界に行く手段が貰えたでしょ」


「分からないのか?…全て罠だ、大妖精と魔王が手を組んで…いや、全てが大妖精の思惑と言っても過言ではない」



主人公は言葉を切った
確かに大妖精の話は上手過ぎると主人公も感じていたからだ



「でも、…私はどっちにしても、影の世界に行くつもりだった」


「…主人公、貴様は知らないだろうが影の世界には…―」



「入れなかったんでしょ?勇者の影の影からは」



勇者の影が言いたかったのは平原でのことだった

影の世界への入り口は到底人間に使える代物ではなかった
陰りの鏡を使った正規のルートではなかったせいか
はたまた影の世界が異常になっているのか
どちらにしても影の世界には近づかない方がいいと勇者の影は思っていた



「主人公が…闇に消えるのは見たくない」



男の真剣な声色に
つられて主人公も少し口元を引き締める
そしてそれ以上に、固い決意の元の言葉を主人公は取り出した





「勇者の影は…、本当に勇者を見つけたいと思ってる?」



「…何、だと?」



「勇者を見つけるために、何処まで出来る?」




勇者の影は面食らって立ち尽くした
まさか主人公にそれを言われるとは思わなかったのだ
勇者を見つけだすことへの思いは誰よりも自分が一番強いものと勇者の影は確信していたからだ
それは彼の存在意義でもあるから




「まだあんまり目に見えないけど、世界が変になってきてるでしょ…」



「…それがどうした」



「多分、…そう、多分だけど、これからもっと大変な旅になると思うの、リンクを見つけることが困難になる」



「それは、何となく…分かるが」




「私はね、リンクを見つけるためだったら命も賭けられるんだよ」





耳を疑った

本当に勇者の影は耳を疑った







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