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うなされる自身の声がどこか遠くの方からの別の音のように聞こえ
勇者の影は目を覚ました

薄暗く見慣れない洞窟内
壁にはゆらゆらと映し出される水面の模様があり、中央の泉の前には主人公の姿が見える

この場所が何処かということの答えは出ないが、勇者の影はあまり気にならなかった
息をついて自身の左手を持ち上げて見ると、何故か砂に埋まっている体に気付き少々焦りながら砂を払い始めた

そんな勇者の影にいち早く気付いたのは、主人公と大妖精との会話に外れて壁に寄り掛かっていたムジュラだった


「あ、勇者の影起きタ」

「ムジュラか…此処は……あの女は何だ?」


勇者の影は腕や膝を叩き立ち上がる
この洞窟の正体をムジュラに尋ねようとするが、それ以前に大妖精の姿がより勇者の影の目を引いた為に質問を変えることとなった


「アノ女?」

「あの…半裸の女だ」


勇者の影には理解できなかった
つまりはどうしてそんな破廉恥な格好の女が堂々と人前に姿を見せているのかということをだが


「大要請だってサ、アイツ」

「…大妖精?」

わざとらしいムジュラの誤変換も掻い潜って勇者の影は再び大妖精を見た
大妖精はエメラルドの長髪で半裸の身体を際どく隠しているが
その態度は毅然としてうかがえた

(俺の見知っている大妖精とは随分違うな)




「いや…ちょっと待って、意味がよく分からないわ」


突然そう切り出したのは主人公の声だった
彼女は頭を二度三度ほど左右に振り誰かの発言を遮るように手を前に突き出して一歩後退った


「貴方は意味を理解したはず…信じ受け入れられないだけです」


「そりゃそーでしょ!何せ、私たちが砂漠に来たことがただの魔王の罠だったって言われて…その直後には影の世界へ行かせてくれるなんて、話がうますぎるし」


主人公と大妖精の会話を聞き
驚きを隠せない目で思わずムジュラを見た勇者の影
砂漠へ来たことは無駄足だった?
ガノンドロフが現われた?そして影の世界へ行ける?

自分の意識が無い間に半世紀分の時間経過があったのではないかと考えた



「どういうことだ、貴様」

勇者の影は黙っていられなくなり大妖精と主人公の会話の割り込んだ



「勇者の影居たの!?」

気絶中で全く気配がなかった勇者の影の存在に漸く気付いて主人公は少し驚いた
大妖精は冷静な視線を勇者の影に投げた



「貴方がたの目的は、影の世界に行くことでは…?」


「勇者を見つけることだ」

「勇者の影!ちょっと黙って」


大妖精の言葉に反抗的に答える勇者の影を主人公が叱り付けるが
勇者の影は黙る気などさらさら無いといった視線を大妖精の方に固定し続けた


「ソルを影の世界から持ってくればいいの?」


「はい、ソルは影の世界に二つ存在します…一つは砕かれて此処にあります、…私はそのもう一つを持ってきていただきたいのです」


#主人公は腕を組んで首を傾げた
何か引っ掛かる気がするがソルとやらを持ち帰るのが困難でなければ悪くない話だ



「でもどうして私たちに頼むの?貴方が行けばいいのに、妖精の女王さん」



主人公は少し挑発的な口調で尋ねた
上手い話は嫌いではないが何となく大妖精の話し方や物事の進め方が気に入らない


「私はこの地に縛られた身…このゲルドの地を守る為、ここを離れられません」


大妖精は目を伏せて長い睫毛の影を作る
真意を探ろうとする主人公の瞳を避けるように数回の瞬きを繰り返した後
光る泉の中から白色のメダル取り出し主人公の目の前に持ってきた
表裏に六雫の文様が刻まれた掌サイズのメダルだ



「このメダルを処刑場の上層、鏡の間でお使いください」


「…それで、影の世界に行けるの?」



未だその申し出には引っ掛かりを感じるのだが
こうも目の前に差し出されては主人公の手は怖ず怖ずとメダルを受け取る他になかった



「砂漠の処刑場まで、私の力で貴方がたを運びましょう」


「え?」


主人公がメダルから目を離し大妖精を見上げようとしたときにはもう視界が白に支配され
耳の奥を突き刺すような細い耳鳴りが響いた





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