宛てもなくハイラル平原を彷徨い歩いていた男は
前方から車が向かってくるのを確認した
山羊に引かれる車という珍しい光景だが男は全く意に介さなかった
男は深呼吸でもするように鼻から大きく空気を取り込んで吐いた
「また濃厚な『記憶』の匂いがするな…」
男は紅い目を細めて段々と近づいてくるそれらを見据える
さして意識もせずに自らも足を歩かせて山羊車との距離を縮めた
手綱を引いている人の表情までわかるほど近づくと
あちらの方も男の存在に気付き馬の動きを緩めた
「リンク…!?」
距離を置いた位置からでもわかる程の大声が男に問い掛けた
男は口元の笑みを隠さずに顕にした
ハイラルに住み着く人間の殆どが同じようなことを言ってきた
久々のリンクとの再会を喜び
手を振ったり、駆け寄ってきたり
歓迎の遇しを施すのだがそれも直ぐに止まる
皆「ん?」と違和感を覚え
改めて男の姿を見直して初めて別の人物であることを知るのだ
間近に止まった山羊車を見上げて黒服の男は手綱を握っている男を見た
今回もまた同じような反応を示すのだろうと思って
男はリンクに似せた微笑みを浮かべた
「…リンクじゃないな、何だお前は?」
しかし意外にもあっさりと
男が別人であることがばれてしまった
更に警戒を強めた相手は背中の剣に手を掛けて立ち上がる
「貴様では俺は殺せない」
黒い男も左手で剣を抜き
リンクと同じ顔で心底楽しそうな表情をした
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