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ムジュラが仮面の姿で流砂に身を投じ
勇者の影の後を追って流されていくと

砂は広い洞窟の壁の横穴から流れ出た



「うえ、っぺ、ぺ!砂嫌いダ!」


ムジュラは砂と一緒に洞窟の地面に落ちると
すぐさま人の姿になったが
しっかり砂を払わないままだったので口の中にじゃりじゃり感が残ってしまった
その不快感は恐らく巨大な紫チュチュを踏んでしまうくらい気持ち悪い



「…ここ、何処ダろ」


ムジュラは一通り砂埃を落として
降り積もっていた砂の山から立ち上がる

薄暗く大きな洞窟の中央には泉が湧いている
とても自然に形成された空間には思えない広さで
ムジュラは視線を上に向けたが
壁が果てしなく続いているだけで天井も見えない



「すんごい地下みたいだナ…あれ、勇者の影は?」


ムジュラは勇者の影の存在を思い出して自分が出てきた壁の穴に目をやり
そしてその下に降り積もる砂山に目を移すと
砂の中から黒い帽子の先を発見した

ムジュラは指先を指揮するように揺らし
遠隔から砂山を操作して勇者の影を掘り起こした



「勇者の影ー?生きてるカな」


呼び掛けながら近寄ってみると
勇者の影は少し眉を寄せた
それで意識が戻ったのだと思ったが
勇者の影はただ悪夢にうなされたように唸るだけだった



「う…、っ…」


「悪夢ちゅうみたい…キシシ」


ムジュラは勇者の影の苦悩する表情を飽きるまで観察し
洞窟中央の神秘的な泉を調べようかとしたときに


離れていこうとするムジュラの手を
勇者の影が掴み引き寄せた



「ワァ!!ナンダヨ!?」


「…、……主人公…」


ムジュラは全身に悪寒が走り鳥肌が立った

夢の中で何に苦しんでいるのかは知らないが
勇者の影がムジュラの手を握って主人公と呟いた
ムジュラの手を主人公と間違えているのだ



「うぇ、手ぇハナセ!気持ち悪っ!!」


「俺は……主人公が…―」


何かを告げたがっている勇者の影の頭を踏み付けて強引に手を抜け出し
ムジュラは未だゾワゾワする気持ち悪さを拭うように地面にのたうち回った



「なんだコイツ!手握られたゾ!…主人公だったらよかったノニぃ!!」


ムジュラがキッと勇者の影に振り返ると
勇者の影はまだ半分砂に埋まりながら夢の中だった
砂が口に入る不快感とは比べものにならない


ムジュラが自身の手を憎々しげに擦り合わせていたとき

ずっと上の方から何かの音が聞こえた



「?…なに?」



暗さの為に果てが見えない洞窟の上方
その暗闇の先から聞こえたのは声







「… ……、…ぁ ぁぁ ぁぁああああああーー!!」




「主人公ー!」



たった今の気持ち悪さを一瞬で吹き飛ばす彼女は差し詰め天使か神か

物凄いスピードで落下してくる主人公に
ムジュラは歓喜の笑みを向けた



しかし主人公はムジュラにも気付かずただひたすら叫び声をあげていた



ムジュラはその場で姿を消し
落ちてくる彼女の真下に姿を現わした


目を瞑り身構えている彼女が自分の両腕の間に来るときに
一瞬空気を歪ませてふわりと主人公を腕に収めた




「…し、死んだわ…私」


大分長い距離を落ち続けていたらしい主人公は
まだその浮遊感が身体に残っていて落ち着かずに
その反面頭の中は放心状態だった


ムジュラは不思議そうに小首を傾げ
主人公の首筋に手を置いた


「主人公、すごくドキドキしてるヨ」


「何で首で脈を測るの…」

主人公は砂漠の地割れからこの地下洞窟まで
一、二分は叫び続けながら落下していた
一、二分なんてあっという間かもしれないが
掴まる物も無く先が分からない空間で落下しながらの一、二分間というのは
即席麺の出来上がりを楽しみに待つ時の三、四分に匹敵するほど長く感じられ

絶えず恐怖しながらそんな時間を過ごしていれば誰だってバクバクと鼓動が鳴るに決まっている






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