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「主人公が居ないヨ!!」




砂嵐の中でムジュラが騒ぎたてているが
勇者の影の聴覚をもってしてもそれは聞き取りづらかった


そこでは砂漠の乾いた風に砂が混じり
最高に視界が悪く雑音も多かった




勇者の影はもう一度周りの景色に彼女の姿を探したが
目の前のムジュラさえも黄砂に霞んでいる状況では
到底捜し出せないと断念した





「…何故、近くにいたのが貴様なんだ」



トビーの大砲によって砂漠に飛ばしてもらったのはつい先程のこと
どうも大砲の調子が悪いと言っていたので嫌な予感はしていた



飛ばされてきてみれば何故か主人公だけがはぐれてしまい

何故か二人が落ちた場所はゲルド砂漠ではなく
その周囲の砂塵帯、幻影の砂漠だった





「それはボクの台詞ダネ、主人公と二人きりになりたかった!」



ムジュラは口に入った砂を吐き出すように言った後
本当に砂が口に入ったのか
それを嫌がって仮面の姿になり勇者の影の頭に乗った



「便利だな…その変身機能は」



勇者の影は砂から目を守るように細くしながら歩き始めた

方向も分からなければ行く宛てもないが
黙っていても砂に埋まるだけだから歩くしかない

何より主人公が傍に居ないことが勇者の影を焦らせていた



「勇者の影モ影にナレバいいノに、ナンカ、わしゃわしゃーって、霧になれるんデショ?」




勇者の影の頭の上でムジュラがケタケタ笑いを空に飛ばした

喋るのに口を開くのも億劫で
勇者の影は無言のまま自分の首を拘束する金属を指で叩き示した


主人公によってはめられたこの首輪のせいで
勇者の影は人の姿を留めていることしかできなくなってしまったのだ


そのため砂風が吹き荒れる険しい気候も
地道に歩いて越えなければならない


ムジュラはその首輪の存在を思い出して納得の声をあげた

そのすぐ後に仮面は歩く勇者の影の横を漂い楽しそうな声で提案をした




「ソノ首輪…オレがハズシテやろうかぁ?へへ」




「…貴様に、出来るのか?」



勇者の影は驚いて立ち止まった
ついつい見開いてしまった目に容赦無く砂埃が入ってきてすぐに目を細めた


勇者の影はもはや主人公から逃げようなどという気は無かったが
主人公はそれを外す気は毛頭無いらしく
今でも首輪はがっちりと勇者の影の能力を押さえている

どうせ簡単に鎖を手放してしまうのだからさっさと外してほしいと最近は考えていたのだ




「出来るヨー?アタシに不可能はナインだカラね…デモ…」




ムジュラは言葉を切り

「でも」の後に何が続くのか予想出来ず首を傾げる勇者の影の周りを二、三度公転したあとに

散々勿体ぶってやっと言葉を続けた







「勇者の影はハズシテ欲しくないんじゃない?ヒヒっ、…」




何を口走っているのだろうと
勇者の影はますます頭を捻った

外してほしいに決まっている
こうして立ち尽くしている今でも
目、鼻、口の中に厚かましい城下町の主婦達の如く割り込んでくる砂が欝陶しくて堪らない

少なくともこの状況下では人間の姿でいたくないのだから
やはり首輪は外してほしい



しかしその考えを打ち消すように
ムジュラの言葉は尚も続いた





「ケケケ…っ、勇者の影はさ、主人公に外してほしいンダろ?」





「…?どういう意味だ」


勇者の影は本気で意味が分からなかった

主人公に外してほしい…?

別に主人公個人に拘ってそうして欲しいという願望は無い
それでもムジュラは仮面をグニャリと歪ませて見透かすように目を細めたので
勇者の影はその気味悪さに少し後退した



「んふフー…勇者の影もスナオじゃナイねぃ」


「何のことだ」


「本当は勇者の影にギチギチに縛られたいんじゃないのー!?」



「誰がM字だ、クソムジュラ」


『それを言うならドMだ』と
ムジュラが言う前に仮面は砂の上に叩き落とされた

こんな仮面の話に耳を傾けてしまった自分が馬鹿だったと
勇者の影は溜め息を吐いた






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