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ガノンドロフは口を横長にして笑み
絶体絶命と書いてある主人公の顔を悪人顔で見下ろした


どうにか逃げ出せないかと靴の下で捩る手が滑稽に感じられ
その主人公の手を踏み躙った




「い、っ、たぁー!!何すんのボケ!困ってる人を踏み躙るな、助けなさい!」



「神の分際で…人間に助けを求めるのか?」



「誰が…、神だって?寧ろあんたの方が、神に選ばれた人でしょーが、助けろ!!」



主人公が煩く叫ぶほど
ガノンドロフの笑みは不快な顔に変わっていき
踏み付ける爪先の力を強めた


主人公の右手はその痛みと体重を支える痺れで感覚が無くなっていたが
滲み出る血の色が自分で見ていても痛々しく
同時に気持ち悪くもなり
勇者の影とムジュラに反応してみせるようないつもの調子で嘔吐のフリをしそうになった


(いやいや、今すっごく緊迫してたんだったわ)


主人公が制するように首を横に振ると
それが何のつもりか理解できなかったガノンドロフが眉を寄せて無駄に訝しんだ



何故こんなところに魔王が居るのかは知ったことではないが
とにかくこの状況はやば過ぎる


下は奈落の底

上はかつてのハイラルを脅かした魔王




逃げ道が全く見当たらない



「白を切るのか…それとも何も知らされていないのか?」



「へ?…―!!?」



ガノンドロフは彼女の手を蹴った

手が崖から外れ
主人公は本気で落ちると思ったのだが
瞬時にガノンドロフの手が主人公の首根のローブを鷲掴み
持ち上げたその体を砂地に投げ落とした




「あっ、ぐ…っ…、背中、二回目だっつの!」


主人公は背中からの衝撃に全身を痺れさせつつ臨戦の態勢に屈んだ


光の矢は今の過程で辺りに散らばってしまっている

主人公は周囲の状況を観察し
どうにか逃げ出す策を練っていた







「貴様のトライフォースを寄越せ」





主人公はガノンドロフの言葉を最後まで聞き取らずに地を蹴った

一番近くに落ちていた光の矢を拾い上げ
地割れの溝に沿って走った


「何言ってんのよ、あいつ…!!」


主人公がチラリと振り返ると
ガノンドロフがこちらに手をかざし
その手に向かって黒い空気が渦を巻いて集中している

絶対に何かがビーム系のものが飛んでくると直感して
主人公は前方の岩影に跳び込んだ


「どわぁっ!!」


次の瞬間には爆音と共に身を隠していた岩は吹き飛び
ゲルド砂漠にひび割れが追加された


「うわ!!やばい」


ガノンドロフはいくつも魔弾を飛ばしながら
余裕の表情で歩み寄ってくる


(何で魔法が使えるの!?)


ガノンドロフは勇者の剣によって封印され
トライフォースの力も失ったとゼルダに聞いていたのに

際限無く魔力を発揮しているのはどういうわけだと主人公は舌打ちをした

まだ魔法が使えないガノンドロフならただの力馬鹿かと思い
逃げ出すことも簡単だったが
あんな強力な魔法を狙い撃ちされてしかも一対一では難しい



(大体何で私が攻撃されてるのよ)


奴なら封印が解かれて自由になった時点ですぐさまリンクの元へ復讐に向かいそうなものだが
彼の目的は主人公のトライフォースだという
しかし主人公には心当たりはなかった






「いつまで逃げるつもりだ!!」



ガノンドロフの声が遠くから聞こえ
その直後に主人公の足元の地面に魔法が当たり爆発した




「うそ!?あっ、―!」


主人公が辛うじて直撃を避けて跳び退いた先は



地面の裂け目だった






「ああぁぁぁー… …  ―」







主人公の叫びが小さく反響し聞こえなくなっていくのをガノンドロフは見届けた

失策だったと後悔するように身を翻し
別の地へ向かうべく足を踏み出した



拳をつくったその手には

微力に神々の力が残っている






「トライフォースが…還ろうとしている」











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