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(あいつ……生きてるのかな)



暫らくの休憩の後
主人公は再び歩き始め
また少し疲れを感じた頃にふとそう思った

別に勇者の影とムジュラの生死の気遣いをしていたわけではない
あの二人はそんじょそこらの魔物や
石畳の隙間からも直向きに花を咲かせる根性植物なんかよりもしぶといのだ

光の矢を何本刺しても死にそうにないし
むしろどうやったら死ぬのか教えてほしいくらいで
心配なんてするだけ無駄というものだ



主人公が気にしていたのはその視線の先のものだった

遠くの方にもう一つ
最初に見たものとは別のパイン(仮名)が漂っている

主人公は一目見たときから気になっていた



(あれ、生き物…?)


実は自分を襲うつもりだった魔物の類なのかもしれないと主人公は考えた
しかし標的が近くで無防備に休憩していたというのに何もしてこないなんてのは魔物の風上にも置けない


結局あの物体の謎は深まるばかりで
主人公は諦めて進行方向を見据えた


主人公は砂漠の処刑場へと進路を決め
今も全く距離の縮まらない建物の景色を見ながら歩いていた

砂漠の暑さから逃れたいということと
そこに二人も向かっているかもしれないという淡い期待を込めて決断したのだ


普通こんな広い場所で互いにはぐれてしまったら
一番目立つ建物や場所に集合すると考えるものだから
主人公はそれに従ったまでなのだが



一つ問題なのは



勇者の影もムジュラも普通ではなく

二人とも馬鹿だということだった




(勇者の影は肝心なとこ抜けてるし…ムジュラは考えようともしない奴だし)



どうか二人があの場所に居るようにと
淡い淡い期待を込めて歩みを進める













「あぁーあ、…砂漠って…何もないよー」




不意に主人公は空に向かって大声を出した

平原で勇者の影が言っていたことを思い出したのだ
彼は本当に何も無い場所だと言っていた
砂漠には本当に何もなかった


どんなに探しても見つからなかったリンクを
それでも更に見つけだすには普通の場所を探しても駄目だと考えていたため
ムジュラから砂漠で光るものを見たと聞いて、主人公は砂漠に向かうことにしたのだが
砂漠に一際輝く「何か」は見当たらない
まだしっかり調べあげたわけではないが
主人公はもはや帰りたいと思っていた



斜め上の空を見ながら
主人公は自分の育った里を思い出していた


忘れられた里にもこんな乾いた空気が漂っていた
全く人気の無い場所で、代わりに猫がたくさん住み着いていた

親代わりのインパルさんに
小さい頃から多くの話を聞かされて育った
王家の歴史、ハイラルの神話、表には語られないシーカー族の秘密




「…混沌とし、何もない世界に神々は降臨し…生命と、秩序を…造られ…―」


飽きる程読み返してきた神話の一節を呟きながら主人公は歩いた

近くに転がる乾燥した動物の骨を目に入れて
砂漠はそんな神の造った世界とは無縁だと嘲った

ゲルド砂漠には生命も秩序も無い


(これだから神なんて…信用ならないわ)



フラフラと覚束ない歩き方になっていることにも気付かず

主人公は朦朧と前を見据えた






「う、わっ!!」



急に視界がガクンとずれて
全身を襲った浮遊感でハッキリした意識



砂漠の乾いた大地が大きく裂けて
底が見えない程の地割れになっている
主人公はそこに足を踏み外していたらしいが
寸でのところで崖に手を掛けて助かった



「すごっ、これ…危ないよ!なんだこれ!!」




下を一瞬だけ見た恐怖に焦り
慌てて元の地に上ろうとしたとき

何者かが彼女の手を踏み付けた






「っ、痛…な、なに!?」






「いい眺めだ…神を見下ろすというのは」





気品の欠片もない男の笑い声

太陽の逆光でハッキリとは見えないが

何となく主人公にはその男の正体が予想できた






「ガノンドロフ…?」








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