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「… 、…  ぁ ぁああああああー!!」





主人公の叫声は乾いた空気を駆け抜けた

残念ながらこのゲルド砂漠には生き物が存在していなかったために
空から降ってくる人間に対して目を見開いて驚く者もいないが
普通ならスタアゲームなんて子供騙しよりも皆が注目してしまうほどあり得ない光景だ



主人公は背中から砂地に落ち
勢いは止まらずに砂漠を数メートル滑っていった




「ぅぎ…いっ、たぁー……」


強打した背中と腰を労い
撒き上がった砂煙を払いながらゆっくり立ち上がった





「ここがゲルド砂漠か…!砂漠あっつーい」




砂漠初体験の感動を
両手を掲げて肌に感じる主人公

その彼女の周囲は砂漠という名の通り見渡す限りの不毛の地
肌を焼く太陽とカラカラの空気
ハイリア湖よりも広くとりとめのない黄土色の砂


生命を歓迎しない死の世界がそこには広がっていた

しかし主人公はまだ砂漠の恐ろしさに気付かずローブさえ来ていない






「あれか…陰りの鏡があった場所って」


砂漠の遠くに高い塔群が見えてそう呟き
視線を横にそらせば先程まで自分が居た湖が遠くの景色になっている

あんな長距離を飛ばされて
我ながらよくもまあ生きて来れたものだと主人公は感心した




「さて…勇者の影とムジュラはまだ来ないかな」



トビーの大砲で一人ずつ一発昇天してもらうことにしたのだが
後から来るはずの二人はまだ来ない模様

きっと大砲に入る順番でも揉めているのだろうと予想し
主人公は少しその場で待っていた













「…あの二人遅くない?」


いくら待てども彼らは降ってこなかった

主人公は近場の日陰に避難していたが
上から下から熱を発している砂漠の空気の恐ろしさをじわじわと実感していた

これ以上黙って待っていては丸焼きが早いかそれとも白骨化か
主人公は身震いした後に冗談じゃないと吐き捨てて立ち上がった



「どっか、別の場所に落ちたかもしれないわ…砂漠広いし」



トビーの大砲の正確さは身を持って体感済みだった為に
砂漠にも皆を同じ場所に飛ばしてくれるものと踏んでいたが

無理に水の弾を発射させたことが仇にでもなったのかと考え主人公は歩き始めた









「とりあえず…何処か、高い場所に…」



歩いて行くにつれて喋ることにも疲れを感じていた

主人公はゼルダのローブを頭からしっかり着込んだが
どうもその厚い生地や質感からいって砂漠向けではないような気がしていた
さすが王族のお召物は凡人には重量感を与えるなと皮肉気味に笑ったが笑い事ではなかった
ローブにも重みを感じるほど主人公の体力が減っていたのだ



主人公は自分の来た道を振り返った

自分の足跡が数メートルの距離を曲線で描いている
砂漠の着地時に滑った跡もまだ見ることができる


(全然進めてない…)


久々に己の体力の無さを痛感して
無駄にその場に立ち尽くした




その時

妙な効果音を聞き

主人公はその音源を辿った



「…何、あれ」



空中をゆったりと移動する物体を発見した

乾いたパイナップルのような植物が
その頭の葉を忙しなく回転させて空を飛んでいる


主人公は疲れも手伝ってその奇妙な光景に脱力感を持った


茫然とそのパイン(仮名)の動きを目で追っていくと
よじ登れそうな高台を発見した

どうやらパイン(仮名)はその高台の周囲をひたすら旋回しているようだった


主人公はパイン(仮名)の動きに注意しながらその高台に登った

そしてそこから砂漠を一望した
別の場所に落ちたであろう勇者の影とムジュラの姿を探そうという目的でしたことだったが


広大な砂漠の景色を見る羽目になり
絶望にも似た圧力がのしかかった




「うぇー…、砂漠…かなり広いじゃん」




主人公はその場に座り込み
二人の発見も出来ないこの状況をどうするべきか考えた

パイン(仮名)の葉が風を切る音を聞きながら小さく唸った








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