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森に囲まれた小さな村
誰がそう呼んだのかトアル村という名だった

窓の外に昇る太陽を眺めながら黒服の男は思った


「変な名前だ」



しかしそれを自分が言うのもまた妙な気がした男はベッドから立ち上がり梯子を下りる

その家は男のものではなかったが
主人は既にこの家を何年も空けているらしく床の殆どは埃に覆われて白けている


梯子を下りる途中
男は壁に掛けられた写真を発見した

村人の写真が数枚

陽光で色が褪せているものもある



「記憶の結晶…勇者の過去……」


男はぶつぶつとぼやきやがらその写真に手を置いた
目を閉じて薫りを楽しむように空気をゆっくり吸い込むと同時に
写真は色を見る見る失いただの白紙に変わった



「…黴臭い味だが、無いよりは……」



不味いものを食べた直後の表情を浮かべて男は外に出た


外は奇妙なくらい静まり返っていた
この村をよく知る者が居たらその異変に気付いて村中を駆け回るだろうが騒ぎ立てる人間も居ない

普段なら遊ぶ子供達の声や痴話喧嘩をする夫婦の声、山羊追いをする声
人々の活気が村を暖めている頃だったが
人々は自分達の家を出ようとしない
出ることができないというのが正しいだろう

それぞれが各々の屋根の下で無造作に倒れている状態

その全てはこの黒服の男の仕業だった




「他の地に向かうか…もうこの村に『記憶』は残っていない」



男は森へ続く道を歩き始めた
森を抜け平原を越え
何処に行くかを考えるが何処に行っていいのかわからない
そこで男もう既にハイラルの全てを見尽くしたのだと自覚した



「…困った…、何処へ行けばいい」



しかし考えていても始まらないと気付き
男は絶えず歩き続けた









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