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久々に誰かの欲望が染み入ってくる





ドロドロした感情は花の蜜のよう






「私の望みを聞いて…―」



女の声

何度も聞いたような台詞



また愚かな奴が
ボクに縋ってくる


わざわざ好き好んでその身を捧げようとしている





バカな奴


   バカな奴






「私の願いは…ガノンドロフ様の復活、魔王様の支配される世界で、永遠の命と美をを持って生きること…」




女の声が響くたびに

ボクの喉にドロリとしたものが流し込まれる


前は


封印される前にはよく味わったものだ





醜くて

ずっと我慢してきた

そういう欲ほど


それはそれは甘い味がする

吐き気がするほど甘い







人の願いが尽きてくると
甘い味が貰えなくなる

ボクの口は寂しくなってカラカラになる


だからその代わりに
少しずつそいつの魂と精神と体を取り込んでいく

まぁ、体を乗っ取るってこと





そいつらは自分が失われていることも気付かないで笑うだけになる

ボクがそいつらの愚かさを嘲笑っているのを
自分が笑っていることのように錯覚して


死んでいく







「魔王様のために…あの女から、トライフォースを奪う力を…―!」





  バカな奴


馬鹿なヤツ




でもそれでいいんだ


ただオマエたちはボクを求めればいい




皆  ボクを楽しませるために


  生きて 死ねばいい












『ムジュラぁー!!』




ん?嫌な声がする




聞きたくない聞きたくない




『起きろぉーー!』




主人公の声


ボクを呼んでる


今更欲しがっても遅いのに


主人公の声はボクの耳の奥にいつまでも響く

ボクは苦しくなって
イライラして

喉を過ぎていった生暖かい蜜が逆流する




 何も欲しくなくなる
 甘さが気持ち悪くなる

 こんな誰かの欲望なんて要らなくなる



 ああ、ボクが欲しいのは






(ボクが欲しいのはこんなのじゃないみたい)


























「 イヤァアあああアぁあーーー――!!! 」






「何!?」


「耳が、壊れるっ…」



突然メグの分身たちが絶叫して

主人公は耳を塞いだが
複数のメグを相手に奮闘していた勇者の影は間近にそれを聴いて意識が飛びそうになった


亡霊の群れの中心に一人
ムジュラの仮面を被っていた者が一番苦しみ悶えていることに主人公は気付いた



「勇者の影!何か、あれ!!」


聴覚を麻痺させた勇者の影に主人公が手振りで教える
勇者の影がそれに気付く頃には
メグの体が仮面の裏側に吸い込まれていた

そして堰を切ったように分身の全てがムジュラの裏側に流れていくのを
二人は茫然と見ていた

明らかに収容しきれない数をあの仮面は取り込んでいる



最後に小さな悲鳴と少しの風を呑み切り
仮面は地面に落ちた





次は何が起こるのかと主人公は身構えたが

何も起こらず

先程までの煩さが嘘のようにハイリア湖は静まり返った











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