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ムジュラの仮面がゆるりと空中に浮き上がり
二人はそれに目を向けた

その声は仮面から聞こえてくるが
そんな声に聞き覚えはなく
仮面の動きもどこか不自然だった

といってもムジュラ自体
その全てが不自然の塊のようなものだったが


勇者の影は警戒して主人公の腕を掴み仮面から遠ざかった








「この仮面は、アナタたちの手には余ってしまうわ…そうでしょう?ムジュラ……あら、返事が無いわ」


仮面の裏側から紫の炎を宿した手持ち用の松明が現われた

その松明も仮面と同様に宙に浮き
声が笑うのに合わせて微かに炎を揺らしている





「っ、…勇者の影…、あ、ア、ああ、アレ……ゆゆゆユーレイ!!?」


主人公が勇者の影の服を引っ張り顔を青ざめていた


ムジュラに対しあれだけ啖呵を切った態度だった人間とは
別人のように全力で脅えている






「えぇ、私、メグと言います」



松明の持ち主は体を回転させながら徐々にその姿を現わした

それはくすんだ紫の衣を纏ったポウだった


自己紹介をし
ボロボロの服の裾を片手でつまみ、貴族のような振る舞いで一礼をした


それに震えながら慌てておじぎを返す主人公を見て
怪鳥の群れとか、不気味な仮面とか、影の化け物とか
もっと前から恐がるべき対象はあったはずだと勇者の影は思った





「クスクス…失礼と知りながら、アナタ達の会話を聞いていたわ」


「失礼な奴だな……」


「ばっ!こら、勇者の影!メグさんに何て口をきくの!?」


(何だその配慮は)


「でも、アナタ達が気付かなかっただけよ?…クスクス…私はずっと近くにいたもの」



メグは浮いたままだったムジュラの仮面を手に取り
微弱に光を放つ白い目をにこやかに細めた

主人公はメグの一挙一動に脅え
今にも泡をふいて倒れそうになっていた




「それで、こちらの仮面が不要だとか…?クス…」



勇者の影が気付いたときにはもう遅かった


亡霊メグはその闇色の顔に
ムジュラの仮面を重ねた




「ムジュラ!!」



「へ?…あ、ムジュラ!!?」




勇者の影がメグに切り掛かるが
黒剣は松明に弾き返される

メグは更に高い空中に浮かび上がった





「さぁ、ムジュラの仮面…私の願いを聞き入れて…!!」



メグの声は仮面越しに何重もの音程で響き渡った





















「あの仮面被って、巨大化するんなら、私も被ればよかったかも」



ハイリア湖の限られた陸地を飛び回り
巨大化したメグの持つ炎からまかれた紫の火玉を避けながら
主人公が冗談混じりに言った

巨大化した亡霊にもはや恐怖の要素を見出だせないらしく
また一変して余裕の態度だった



「貴様は…巨大化したかった、のか…―!!」


岩壁を蹴る反動で跳び上がり
高い位置にあるメグの顔に
おとなしく収まっている仮面を真っ二つにしようと
剣を振り上げながら大声で問い返す勇者の影

しかしその攻撃は巨大な松明の一振りで体ごと吹き飛ばされて失敗した



「そうじゃないけど…巨大化したらリンクを探しやすいかもって、思ったんだけど…勇者の影ー大丈夫!?」



勇者の影は精霊の泉の上の岩に打ち付けられたが
すぐに起き上がりメグの姿を捉えた

巨大化といってもせいぜい獣人十人分くらいの大きさでは
広大なハイラルは見渡せないし人探しには全く適さないだろうと勇者の影は思った








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