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「ちょっと待って、その話だと…つまり砂漠には入れないってことじゃないの?」



主人公は地面に広げていたハイラルの地図から顔を上げて向かいに座る勇者の影を見た
彼らは平原の入り口から影の世界へ行くことを諦め、当初の目的通り砂漠へ行く道を確認していた



「あぁ…とても人間の入れる場所ではない」



主人公は地図上にゲルド砂漠と印された部分の周囲をなぞった



「あの砂漠は険しい山脈に囲まれていて道が無い…例えその山を越えたとしても砂漠には辿り着けない」


「…何で?」


「ゲルド砂漠は山脈に二重に囲まれているんだ…その山間は止むことのない砂塵帯…加えて幻影を見せる砂漠になっている」



主人公は困ったように顎に手を添えて考えている
その横でムジュラは額を押さえて会話から外れていた



「あーぁ、わざわざボクが心配して来てやったのになぁ」


決死の覚悟でコッコダイブをしてきた先に待っていたのが主人公からの頭付きだった
そのことにムジュラはご立腹だった

まだ痛みの残る額を撫でながら確実に二人に聞こえるような溜め息をした



「そりゃ、まあ、厄介だけど……勇者の影はどーやって砂漠に行ったの?」


「俺は人間ではないからな…影は何処にでも入り込める」



しかし二人はムジュラには見向きもせず
マップと互いとに視線を移して忙しそうだった





つまんない



つまんない




「うー…それならリンクは?リンクも砂漠には行った筈でしょ」




イライラする




「リンクは…大砲で飛ばされて行くことができたんだ」





面白くない





「大砲…!?」



勇者の影が指し示す方向に目を向ければ湖に浮かぶ小屋があった


「トビーの店って…あれはラッカの小屋にしか飛ばしてくれないよ?」


以前リンクの行方を聞きこみにハイリア湖に来た主人公は
もちろんあのアトラクションを経営するトビーにも話を聞いたことはあるし
ついでに人間大砲もトリトリトリップも遊んだことがあったが
砂漠へ飛ばしてくれるなんて一言も聞いていない

主人公は未だ背を向けているムジュラを一瞥した


「つまり…裏ルートってわけね」


「恐らくはそんなものだろう」



あの気怠そうなトビーもよくしらばくれたものだと感心し
主人公は指の関節を鳴らして立ち上がった



「裏ルートって、私、嫌いじゃないし…、いっちょトビーを締め上げて砂漠へ一発昇天!」




張り切る主人公を勇者の影は座ったまま面倒そうに見上げた


それに続くようにムジュラも静かに立ち上がる
やっと不貞腐れた態度を改めたのかと勇者の影は思ったが、ムジュラは重い口調で言葉を零した









「ボク…もう二人と一緒に行かナイ」





勇者の影は目を細めて立ち上がり
主人公はムジュラの方に振り返った




ムジュラはまだ背を向けていて
その表情がどんなものか二人には見えなかった


勇者の影は重い空気に耐えかねて主人公に視線を送った
ムジュラが何を考えてそんなことを口走ったのかは知らないが
恐らく主人公にはそれは通用しないだろうと勇者の影は考えた

彼自身、主人公にはあらゆる都合も意向もきっぱり無視されて旅の同行を強要されたのだ

きっとムジュラも理不尽に旅に巻き込まれていくのだろうと
勇者の影は少し同情しつつ主人公の言葉を待っていた




「わかった、んじゃ行くよ、勇者の影」




主人公はなかなか動こうとしない勇者の影を促すように鎖を二、三度引き大砲小屋へ歩きだした

勇者の影は予想外の言葉に停止した頭を再起動させたがそこからは動かずムジュラの背を見た




「主人公」




勇者の影は呼び止めたが

主人公は立ち止まらない






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