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「朝か、…きひひ……」



ハイリア大橋の縁に足をつけて
デスマウンテンの向こうから昇った太陽に目を凝らすそのムジュラの背後では
今し方彼の手に掛けられたモンスター達が静かに消えている最中だった



頭の後ろに腕を組み
ムジュラは橋のへりを素足で歩いた
ペタペタと足裏と石橋の間で音が鳴り
ムジュラは動きを止めて目を瞬かせた


「……魔力切れた」


長い袖に隠れた両手を目の前に持ってきて唇を尖らせる


「………」


ムジュラは以前よりも力が使えていないことに気付いていた



ヘリの上に座り勇者の影が落ちていった湖を見下ろす


主人公が死んでいなければいいと考えている自分に気付き
一瞬目を見開いた

まさか彼女に対して心配などしていたのだろうか

ムジュラは考えを打ち消すために頭を左右に振った




「オモチャが……壊れたら、つまんないダロ」



ムジュラは自身の言葉に一人頷きまた小さく笑った

ではその玩具の安否でも確認しに
橋の下に飛び降りようかというところを思い止まった


魔法を使えない今の状態では重力に引かれるままに落下してしまうのは目に見えている
湖への最短ルートだとは言ってもムジュラはその考えを直ぐに削除した


足場の無い橋の外側に足をぶらぶらさせながら上手い策を考えるが
考えるのに向いていない頭は数分置きに傾げられるだけだった
ただ遠回りの道を探すという当初の勇者の影のアイディアは考える前から除外していたために
ムジュラは一向に答えを導けないでいた




「別に…ボクが行かなくてもいっか」



最終的な決断はそれだった
きっと自分がいないことに気付いたら
二人はここに戻ってくるに違いないと気楽に構え始めた




「…でも、主人公が…死んでタら」



この高さから落ちて
下手に固い地面にでも打ち付けられたりしたら
普通の人間だってただでは済まない
ましてや主人公は弱っていた


主人公が死んだら、勇者の影はすっかり自分のことなど忘れてしまうかもしれない、…馬鹿だから

そう考えてムジュラは焦った




「んんーでも、…主人公はとくに元気な人間だし…大丈夫、カモ」



ムジュラは考えながら体の前に組んでいた自分の腕を見た





その腕は少し前まで主人公を抱き上げていた



彼女が少しずつ

熱を失い

光を失い

存在を失っていくのを


ムジュラは間近に感じていた





ムジュラは片膝を抱えてそこに顔を埋めた


早く下に行かなければという焦燥感を抑制するように笑い声を漏らした

心の中がバラバラにぐちゃぐちゃに散らかってしまったとき
ムジュラは複数の声を使って笑う


多くの人間の欲望を今も抱えている彼が
自分を保つための手段だった





「ひひ……くくク…」




その声に律動を合わせるように
何かの泣き声が参加してきた


ムジュラが顔を上げてみると
背後の橋の上を
何処からかやってきた黒色のコッコがリズミカルに歩いていた











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