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暗い



誰かが嘆いている

暗い暗い世界




それはよく分からない異国の言葉で
彼らは歌うように何かを嘆いている



主人公にはその感情が分かった

彼らの闇と一緒に
その気持ちが流れ込んでくるから




  光が欲しい



    光が足りない



飢えた目で彼らは主人公を見る
暗いその空間に
彼らの目は星のように点々と光る




「あの、そんなこと言っても、…私も今光が足りてないのよ」




そう言って主人公は断る

彼らは打ち拉がれた表情で
彼女から遠退いていった




















「…ん、何、此処」



瞼越しにもその場の眩しさが伝わってくる
主人公が久々に目を開いた時の視界には白い妖精が気のままに漂っていた


自棄に眩しいその場所を観察する前に神々しい声がして主人公は向き直った



《此処は精霊の泉…私は光の精霊ラネール》



何かの生き物の形をした光が喋るのを
主人公はポカンとして眺めた

長い身体の尾先を主人公に向けて
精霊ラネールは主人公に光を送り続けていた



「……ここは、影の世界ではないのね…ハイリア湖の泉か」


無駄な程に光を貯えているこの洞窟内を見回し主人公がポツリと呟く

こんな場所が本当に目的の世界だとしたら
影の世界なんて名付けた誰かは何かの皮肉を込めたに違いない


今の状況が掴めずに混乱している彼女を
落ち着かせるのに十分な柔らかい声でラネールが言った



《その影の者が貴方を救ったのです》



そこで主人公は初めて勇者の影の姿に気付いた
力尽きた様子で横たわっている
何があったのか知らないが
未だびしょ濡れで風邪を引きそうな状態だ




「勇者の影…?」



主人公はがっちりと繋がれた手にも気付く
勇者の影には意識が無いのに
その手は絶対に離れない



疲れ切った顔の前で寝息に揺れる前髪を見て
呆気のために半開きになっていた口を微笑ませた


結果として影の世界には行けていなかったのだが

何かをよく頑張ってくれたらしい






「ラネール、どーして彼を此処に入れてくれたの?」


勇者の影が影の存在であることを
光の精霊ならば直ぐに気付いただろう

ハイラルの光を奪い影の領域へと沈めたという傷跡を残した影の者たちには
特に過敏になるのが普通であり
違う種類の影であれ勇者の影を拒むのが自然に思える













《貴方を救うためです、…我らが神よ》






「……あっ、そ」




主人公は心底嫌そうに横に顔を背けた


それは彼女の求めていた答えではなかったからだ

何となく
光の精霊が勇者の影の特別な何かを汲み取ってくれたものかと思ったからだった



適当に跳ね返されたラネールの言葉は他の誰にも聞こえていない





(私は神なんて信じないんだっつの)




主人公は勇者の影の熱を感じ取れる手を握り返して
光を疎ましく思い目蓋を落とした










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