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足場の狭い橋の上で、追い掛けてくる魔物の奇声に紛れてするムジュラの声を、勇者の影は聞き取った




「勇者の影ー」



間延びした声に勇者の影が振り返れば
空いていた右腕に押しつけられたのは主人公の肩



「っ!!、な、ムジュラ!?」


勇者の影が彼女に触れまいと慌てる様子を
ムジュラが堪える気も無い笑いを堪えて見ていた



「もぅ触れても大丈夫ダロ?アハっ、気付いてなかったノォ?ケひヒヒ」


ムジュラは魔物に炎の光線を当てるために上へかざしていた腕を
頭の後ろに組んで悪戯成功時の笑いをした

勇者の影が直接主人公に触れて影の侵食が始まるかもしれないと危惧して
わざわざムジュラに対して頭を下げたというのに、その努力は簡単に嘲笑われた




「貴様っ、俺がどれだけ…―」


「オレサマが先に行けって言ってんだよ、っばーか」


ムジュラがまた指先から閃光を飛ばすと
進行方向からも挟み撃ちに来た魔物の群れの一ヶ所が消滅し
橋の向こう側への道が開けた


ムジュラは怪訝がる勇者の影を前方に突き飛ばす
勇者の影は転びそうになりながらようやくその意味を理解し、振り返らずに走った


しかし第二波は直ぐにやってくる
勇者の影の走る前方から、猪に乗った魔物が突進を図っていたのだ



「こんなに乗って、橋…崩れないのか」



その魔物の数の多さに丈夫な大橋に無駄な心配を送りつつ
勇者の影は速度を落とさず、猪の上から射られる矢を左右に避けながら進む

息の荒い獣の大きな鼻の上に飛び乗り
猪にまたがる二匹の魔物を黒剣で切り捨て
未だ走り続けるその生き物から易々と飛び降りた

腕にしっかりと主人公を抱えていることを確認し、安堵していると
その隙を一瞬に貫く矢が勇者の影の手に刺さる



「っ、!!」


一匹と思っていた巨猪はまだ更に前方にも存在して勇者の影に突撃してくる
先程のものと縦に並んでいた為に見逃していた

猪に体当たりをまともに食らった勇者の影は態勢を崩し
その拍子にしっかり掴んでいたはずの主人公が勇者の影の腕から飛び出してしまった




「主人公!!」


「ウ、わっ、勇者の影、バァーカ!!何やってんダよボケ!!」



遠目にそれに気付いたムジュラが罵倒し
勇者の影はムジュラに言い返す代わりに短く舌打ちだけして
宙に投げ出された主人公の体を何の躊躇もせずに追い掛けた

その先は広大な谷底の湖まで足付く場所もない空中





「アァーア…落ちちゃったよ」



落ちていく二人を見届けながらムジュラがそう零す


そして彼を取り囲むモンスターの群れに意識を戻した





「…てゆうか魔物のカズ多すぎダロ…キヒ、ヒヒ」



これが魔王を封印し平和を取り戻したハイラルの姿だろうか

もしそうだと胸を張って言えるような愚者には
「勇者の影よりもお馬鹿」な称号を授けてやろうとムジュラは呑気に考えた



遥か下方の水面で飛沫があがる音を聴いた






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