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広大なハイラル平原には未だに魔物がいた
以前より確実に数は減ったものの
丸腰で平原を越えようなどという愚者は
ハイラルドジョウの成魚をリリースする者よりも極めて少ない

そしてこの広大な地を旅する者がいた
魔物でもなく動物でもない人間の
ゴロン族の頑丈さもゾーラ族の優美さもない、ただの、長耳を持った女だった


誰かに名乗る隙があれば透かさず彼女はそうするだろう
例え相手にまったく聞く気がなくても自分の名前にこれ以上無いくらいの自信を注ぎ込んで声を大にするに違いない


「私の名は主人公」


そう、彼女の名前は主人公
だが生憎と周囲に自己紹介をするべき人がいなかったから彼女の自己紹介は始まらなかった
しかし人間以外の生き物なら主人公の周りを取り囲んでいる



「あーぁ…その、こんにちは…ってことで」


引きつる顔での挨拶も虚しく
魔物達、総勢約十匹はそれぞれ手に持っていた棍棒でもって主人公に単純な打撃をするために振り上げた

「あぶなっ!」

しかし棍棒は地面を少し凹ませるか空振りついでに他の魔物に当たるかのどちらかだった
主人公は常人に真似をしろと頼んでも無理の二文字で返されそうな程の跳躍で上空に回避したのだ

フワリと重力など無視したように静かに数メートル先の地面に着地する主人公に
魔物すらも唖然としてしまった
主人公は隙だらけの魔物に反撃を開始するように振り返ったが
直ぐに踵を返して一目散に走りだした



「あんな数、勝てるかっての」



もちろん彼女にも武器はあった
白色に塗られた軟木に金の装飾を施した高級そうな弓に
同じく黄金の矢が詰まった矢立て
それらは彼女の扱いやすいように誂えられているらしく少々小柄なものだったが
その甲斐もなく高貴な服装でもない彼女には不釣り合いだった




「何っ、あんたら…追ってくんなあぁ!」


魔物は主人公の身のこなしこそ驚いたものの
逃げ走る主人公を弱者と位置付けたらしい
執拗に追い掛けてくる様は今晩のおかずに飢えている獣人さながらだった





「はぁ…、も…くそぅ」


十分としない間に主人公の走りは減速し息も絶え絶えになる
人並みでない運動神経を持ちながら体力も驚くほど少ないのだ



「ギァアっー!ギャー!!」


魔物の意味不明な鳴き声をすぐ背後に聞いた主人公は少しだけ自分の死を悟った


「こんな、雑魚にやられて…た、堪るかっ!」


目を閉じて叫びを空に刺したとき
ガキン、と歯切れの悪い音がした




「大丈夫か、君!?」



一人の剣士が彼女の前に立ちはだかって魔物の棍棒を食い止めていた

主人公は運命など信じないが
もしその剣士がおっさんではなく若い美男だったらすっかり運命を感じずにはいられなかったかもしれない








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