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「さぁーて、どっからでも掛かってきなさい!」



主人公はかれこれ五回程同じ言葉を叫んだが
未だ魔物どころか昆虫の一匹すら寄り集まってこない

立ち上がり軽いフットワークで草を踏みならす主人公に対して
未だ痛みに悶えて丸くなっているムジュラと
腰を下ろして少し愉快そうにそれを眺めている勇者の影



「…現れないぞ」


「きっと出てくる…と思う」


しかし待てどもその前兆のような気配も感じられず
陽が西に沈みきって黄昏が終わりそうになっていく

勇者の影は長々と平原に伸びる主人公の影を観察した
徐々に長さを更新していたその影も
もうそれ以上長くなる様子はない


目を閉じて不意に零した勇者の影の溜め息は
神経質になっていた主人公の顔を歪ませた





「あぁぁー!もー!!君たち!二人ともそんなんだからきっと魔物もやる気がでないんだよ!」



「っ!!」



力任せに鎖を引っ張られ
勇者の影が立ち上がることになった



その時









「…来るヨ」








ポツリと呟いたムジュラの声と同時に
勇者の影の背後に黒色の魔人が現われた




「来たー!!」



「来たか」



勇者の影は上から降ってくる魔物の巨大な拳を前転で避けた






「影の世界への入り口を探して!!」





主人公が大きく叫び彼女の右手から鎖が流れ落ちる金属音が終わった後
三人はバラバラに動き始め

挨拶代わりに勇者の影とムジュラが二体ずつ魔物を葬る音がした

主人公だけは相変わらず回避に撤した







「でもサ、あっちの世界への入り口なんてどんな形してるノ?」


「それを探せと言っているだろう、クソ仮面が、貴様はくたばっていろ」


盾も持たない勇者の影はとにかく攻撃あるのみという勢いで強烈な一撃を見舞わせていた


「それはコッチの台詞だヨ、勇者の影」


「っんな!?」


鞭のように長く変形した腕で魔物を突き刺していたムジュラが勇者の影にもその鋭利な先を向けた

勇者の影がギリギリでムジュラの攻撃を下に避けると
その切っ先は遠くの魔物に深々と刺さり消し飛ばした


「勇者の影とこの人達…あんまり見分けつかないからサァ、間違って当てたらゴメンねぇ…アハはっ」



「こっ、の…貴様!!」



「こーらぁー!!あんたら目的忘れてんじゃないわよ!!」



遠くで一人黒い生き物たちの頭部から頭部を踏み
攻撃を器用にも避け進んでいる主人公が怒鳴った


やはり昨夕と同様に魔物の数は最初の一匹が現われてから堰をきったように増え続ける

前と違って自由に動き戦える勇者の影だったが
先の見えないこの戦闘にそろそろ嫌気がさしていた



「主人公、入り口は何処だっ!?」


「わっかんないよ!!」


主人公は目を走らせた
しかし敵の数は優に百を越えるものになっていてその出所を探るのはほぼ不可能に近い

その場で軽くジャンプすると
その直後に主人公の下の地面を破壊する太い黒腕が伸びる
主人公はその魔物の肩を強く蹴り飛ばした反動で高く飛び上がった



何処からだ

何処から現われるんだ


影の世界の入り口…入り口

影っぽいところ




ムジュラはゲームでも楽しむように一体ずつをタラタラと消滅させている

勇者の影はまた魔物に背後をとられて苦戦中だ




入り口… 影っぽい


わぁ、また背後から攻撃されてる


入り口…影の世界




入り口、背後 …影



影、…勇者の影の背後…の





「勇者の影の影からだ!!こいつら勇者の影の影から出てきてる!」




主人公がそう叫ぶと
勇者の影は驚いて背後に有るであろう自分の影に目を向けた





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