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影の世界への道を探すべく昨日と同じ場所に留まることにした二人と一枚、改め三人

その場で黄昏時まで影の魔物が現われるのを待とうという主人公の提案だった

また大勢に囲まれた戦いになっても
あの悪趣味な仮面の手を借りようなどという考えが浮かばぬようにと
勇者の影は剣の手入れに力を入れていた

だが黒い刀身はいくら磨きをかけても滑らかに輝くことはなく
あらゆる光を吸収して暗くぼやけている


「……」


勇者の影はその様さえも面白くなかった
まるで自分を否定しているようだと思った


勇者の影が視線を外すと
少し離れたところで人型のムジュラが猪の骨の幾つかを宙に浮かせて遊んでいる

その姿が目に入るだけで勇者の影は無条件で吐き気がした
何故急に人の姿になる必要があったのか
ただ確実に勇者の影の不快感を濃くしたということだけは言える



勇者の影はまた視線をずらす

すぐ目の前に主人公が座っていた



主人公はもはやローブを脱ぎ捨て
光の矢を持ち手入れするわけでもなくいじくっていた

勇者の影は何となくその光景を観察していたが
何度か躊躇った後、口を開いた



「主人公…」



「なーに?」



「貴様は、何故弓を使わない…」


「ぎくっ!!?」



(…自分で効果音付けたな)




主人公は明らかに動揺し
手に持っていた矢を落として後退した

勇者の影は不審に思い自分の首輪に繋がる鎖をグッと引っ張る
主人公の右手に巻き付けられていた鎖が彼女の腕を引き

数秒間動きを止めた二人の手の間で鎖が直線を描いている



「魔物の前でも戦わないしな…貴様には多く疑問が残っていたんだ」


「あれれー…そーだっけ?って、ぅあ!いだだだだ!!」


尚も白をきる主人公に勇者の影は目を細め鎖を手繰り寄せる
主人公の体は物理的に正しい方向へ引き摺られていった






「この際だ…主人公、貴様の話を聞かせろ」





二人の距離は殆どゼロになり
勇者の影の威圧的な視線を間近に受けた主人公は言葉を詰まらせる

苦し紛れに矢立てから一本を掴もうとした手も素早く抑えられた




「わ、私の…話とか、そんな…人様にお話できるようなことはございま、せっ、…―」



ふざけた口調の主人公が言葉を詰まらせたのは
勇者の影に掴まれた手が痛いほど握られたせいだった









― 主人公のことナンにもシラナイんじゃない?








勇者の影は固く目を閉じて俯いた


それに比例して主人公の手を掴む力が強くなり
主人公が痛がる声が零れる



勇者の影は分からなかった


何故今自分が

苦しんでいるのか


胸の辺りか
心臓よりもずっと深くか

どこか自分の内側がすり減っていくような痛みが

いったい何の意味を持つのか


何故自分か彼女に痛みを与えているのか











「ばーか勇者の影、お邪魔だヨ」



勇者の影から主人公の体を引き剥がしご機嫌の笑みを振りまくムジュラに主人公は助かったと晴れやかな顔をし

勇者の影はまだ俯いたまま
耳だけはその不快な声を拾って聞いていた



「ネェ、主人公、空を見て」



「え、…何、……あぁー!!?何コレ、何でもう夕方なの?」

主人公がムジュラに抱き留められながらの
気持ち悪い朝の目覚めを迎えたのはたったさっきのことだったのに

空はもう茜に色付き始めている



「骨と遊ぶのも飽たカラ、ボクが太陽沈めたんだヨぉ!偉い?主人公、ボクが欲しくなっタ?」


妖艶に笑うムジュラの顔に勇者の影が睨みを送る前に
主人公の鉄拳が決まったのはその場を驚愕させた




「ーーーッ…、たっ、ぁ……イ…ョ」


声も出ないほどの痛みに崩れ落ちるムジュラを冷たく見下ろす主人公はの口元が楽しそうに歪んでいる


「今度勝手にそーいうことしたらアンタの美顔をボコブリンにしてやるよ」



(どうやって…)


大幅に早められた太陽はまだ急かされているらしく
空の一面を早々とオレンジ色に染める






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