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「ドウだったァ?アタシ、凄かったでショー?」

焚き火の準備をしている主人公の頭の横で舞うムジュラを適当にあしらい彼女は火種を探していた


「勇者の影、火ちょうだい」


「…何も持っていない」


「ボクが欲しくなったデショ?主人公、被ってモいいよ?」


「じゃあ…焚き火できないわ」


「…」


「主人公は何がホシイ?ねぇねぇー」


「んー、今は火が欲しい」

もう日は沈み暗い夜を迎えたハイラル平原
主人公は寒さを運ぶ風を恨んでゼルダのローブに顔を埋めた



「キヒヒ、だったらオレを顔にツケレバいいゾ、それで全部カイケツさ」


「……」


「もういいわ、…私寝るから」


主人公は息を吐いた後に
寒さに身震いしてクタクタな身体を草原に横たえた



「えェ…寝ちゃウノ?」


ムジュラはどうにか彼女の気を引こうと飛び回り泣き叫ぶが
本当に寝息が聞こえてきたので諦めて焚き火の枝の集合体の前に着地した
つまらない、と言うように吐いたムジュラの溜め息は小さい火球となって火種の役目を果たした



「主人公ー、火つけたケド?起キないノ…」


「…ムジュラ」


燃え広がり一つの炎が出来上がった焚き火の前で勇者の影が腰を下ろしてムジュラを見据えた



「寝かせてやれ」


「…何サ、勇者の影のバーかぁ」


一日中歩き詰めて急な戦闘の中で喰われかけて鎖で振り回されて
彼女にとってはなかなか大変な一日だっただろう

しかしやはり勇者の影には気掛かりなことがあった


「ね、主人公ってさア、何で弱いフリシテんの?」


ムジュラもそのことに気付いていたらしい
勇者の影もそれがとても引っ掛かっていた

初めて主人公と勇者の影が戦ったとき
主人公はとても素人とは思えない動きをしていた
人並み外れた跳躍力を持っていた
だが決して自ら攻撃をすることは無い
立派な弓矢を持ちながらも弓を引いたところを見たことが無い

先程のような魔物に遭遇すると悲鳴をあげて恐がっているように見えるが
その反応はあまり自然的に思えないのだ



「……分からない」


「勇者の影、主人公のことナンにもシラナイんじゃない?」


ムジュラはケタケタと嘲笑う
勇者の影はまた仮面を叩き割りたい衝動に駆られるが代わりに火のなかに枝を追加する動作をした



「…リンクを探すだけだ」


目的はそれだけ
その筈なのに

やはり何処かで主人公に対してそれ以外の感情を持ち始めてはいなかっただろうか

分からない

(俺は何も分からない)

今は先ず果たすべき目的がある
それだけを考えていればいい

だが本当にそれだけか



「マァ、そんなこと言ってるウチニ…ボクが主人公を貰うヨ」


「…何故、主人公に執着する」


「シュウチャク?アハ、オレ様がそんなことすると思う?」


「……」


「勇者の影ニハ魔力が効かナイって言ったダロ?ダカラ主人公の身体が欲シイだけ…人間のカラダがほしいノ!」


ムジュラは馬鹿笑いして仮面を眠る主人公の上に漂わせた
勇者の影は今度こそムジュラを粉々にしてやろうと思い立ったのだが
するまでもなくムジュラは急に起き上がった主人公の手に張り飛ばされた


「煩くて眠れないわよ!」


主人公が眠そうな目でムジュラに吐き捨ててから勇者の影を見た



「ふぁ、おやすみ勇者の影」


眠い声で言うや否や主人公はまた元の位置に身体を休ませた
すぐに寝息がして微かにローブが上下している


(寝呆けていたのか)

危うく焚き火の中に叩き込まれそうだったムジュラは炎のすぐ横で半泣き声をあげていた

主人公を影の魔物から守るという名目でそれ以上の働きを見せた仮面に対する扱いにしては少々バイオレンス過ぎると
勇者の影は考え直した







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