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「あーっ、勇者の影!後ろ」


主人公はずっと鎖を手に巻き付けて勇者の影の周囲をちょこまかとしながら魔物の切り裂く爪を避けていた



「っ、こいつら何処から湧いてくるんだ!」



最初の一匹が現われてから息つく暇もないペースで次々に影の魔物が現われた

しかしその出現の瞬間を主人公も勇者の影も確認できていない
出所が分からなければ際限無く現われるそれらを力尽きるまで相手しなくてはならないことになるが
そんなことは二人同意で御免事項だった




「知らないよそんなの!ひぃっ、ぁ、ぶな!」


「主人公っ、鎖を離せ邪魔だ」


「いや、無理っ、勇者の影また後ろに!」



勇者の影は舌打ちをしながら背後の魔物に剣を突き刺した
魔物はあっけなく黒い霧になって消える
その状態はやはり勇者の影が黒い液体やら影やらに状態変化するときの様子と酷似していると主人公は思った





「ばっ、避けろ主人公!!」


「ぇ…!きゃぁぁっ!」



ぼんやりとそう思っていた主人公の胴を鷲掴む巨大な魔物の手があったのだ
魔物は両手で主人公を高く持ち上げて頭の装甲の下に隠された口を広げて彼女を迎え入れようとしていたので
主人公は精一杯悲鳴を上げることに力を尽くした



「叫ぶ暇があったら何かしろ!馬鹿がっ」


「ばっ、馬鹿ぁ?!勇者の影に言われたくなぃあぁぃぁぁ!!」


主人公の手に縛られていた鎖が勇者の影に強い勢いで引き寄せられ
食い込む魔物の爪に擦りながら主人公の身体は解放されたが



「そのまま、頭を庇え」


「は、ぇ?ええぇぇーー!!」



主人公を引っ張る勢いを利用してそのまま鎖を振り回し
彼女の身体をを鉄球さながらに魔物の群れにぶん投げた




「死ぬぅわぁぁーー!」


「死ぬか」



一度に複数を黒い霧と葬り
未だ叫ぶ主人公を最後に引き寄せて上手くキャッチするが
反動まで受けとめ切れずに二人で平原に倒れこんだ



「ばっ、馬鹿じゃないの!?何、今の…絶叫マシンか!」


「っ、その話は後だ、退けろ、そして鎖を、離せ!!」


上にのしかかっていた主人公の身体を庇い抱き寄せながら
勇者の影は襲い来る残党の攻撃を剣で弾き返した

本当に何も戦うことをしない主人公を守りながら戦うのでは分が悪い
勇者の影は苛立ちながらあまり呼びたくない仮面を呼んだ




「ムジュラ!!」



「ナァニかな勇者の影ー」




今まで高い空でこの騒動を眺めていたのだろうか
ムジュラは上からヒラヒラと舞い降りて二人の周りを飛び回った




「主人公を守っていろ」

「えっ!?」


「ふぅーん…、ソンナニ主人公が大事ィ?」


「えぇ!?」



ムジュラに守られるとなると
またハイラル城での顔面吸い付き悲劇の再現がされるのではないかと予感した主人公が声を零し

次いでムジュラの衝撃発言に驚愕したが

直ぐに仮面は勇者の影によって地面に叩き落された





「イタタ……まぁイイゼ、一回クラい主人公に見せタカったんだヨネ」



ムジュラは不気味な動きで
やっと立ち上がった二人の間に浮かび
笑い声を響かせながら仮面を小刻みに振動させた







「けひヒひヒっ…馬鹿なザコはオレ様のマワりを動くナよ」



ムジュラの声が更に高らかに笑い始めると
仮面から一瞬に紫の波動が広がり空気を染め上げ

黒く蠢いていた魔物が不自然に動きを止めた




「ぅえ!…何、すごい」



「キヒヒヒヒ、アハははっ」



吐き気を誘う禍々しい邪気が周囲を満たした直後に
魔物は跡形もなく姿を散らした









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