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「ねぇ、もしかしてさ」



何事もなく順調に歩みを進めてきた二人と一枚の仮面
とは言っても特別体力の無い主人公に合わせて進んできた為にまだ広いハイラル平原のど真ん中にいて

もう夜を迎えようとオレンジに染まる空の下で主人公が急に立ち止まりそう呟いた

主人公が止まれば必然的に勇者の影も立ち止まり
ムジュラも主人公の周囲を少し漂ってから彼女の頭にちょこんと乗った





「今日、野宿じゃない?」


彼女の絶望的な顔を一瞥してから
勇者の影は改めて平原の景色を観察した

見渡すかぎりの野原が黄昏色に染め上げられて
自分達と数本の木々の影が長くなっている

勿論この感動的な風景を妨げる民家や人工的な建物は全く見当たらない





「そうなるだろうな」



「そんな、野宿なんて…っできないよ!」


「アタシもやだー!ノ宿キライだもん」



喧しくされても勇者の影にはどうすることもできず
取り敢えず一番煩いムジュラに睨みを送った




「元はと言えば、貴様の足が遅いのが原因だろう」


勇者の影が視線を主人公に移すと
主人公はツンツンと鎖を引っ張っていた動きを止めて目を見開いた



「はぁっ?勇者の影がちんたら歩いてるから、速度合わせてあげたんでしょー!?」


さも心外だとばかりに声を荒げる主人公に
それはこちらの台詞だと対抗する勇者の影



「ねぇー、デモもう野宿は避けられないカンジじゃない?」


「俺が貴様より遅いわけがないだろう!貴様の体力が皆無なのは知ってるぞ」


「貴様って言うな!主人公だって言ってんでしょー!だからすぐ忘れるんだよ、私も真っ黒黒助て呼ぶよ!?」


「ネェー、取り敢エズアッチノ木の下に行かナイ?」

「話をすり替えるな!貴様は貴様で十分だ、真っ黒黒助とはまた考えが安直だな!」


「話すり替えてないし!あんたも話流されてんじゃないの、この…偽リンクが!」


「っ…!」




最後に主人公の怒声が響いて勇者の影は言葉を詰まらせた

主人公もそれ以上の口論を続けなかった







「アーラら…、嫌ナ空気」

「……煩いよ」



向き合っていた位置から主人公は背を向けて歩き始めようとするが

勇者の影は俯いたまま動こうとしない



主人公は何と言っていいのか分からず
同じようにそこに立ち尽くした


自分の足から伸びる影がその長さを増していくのを見て
主人公はやはり勇者の影に謝ることを静かに決心した








「あ、の…勇者の影」







振り向いた時に



勇者の影は未だ下を見たまま立ち尽くしていた

それだけなら問題無い



ただ問題だったのは




彼の背後にただ事ではない物を見たことだった





「勇者の影っ!!」


その声に勇者の影が顔を上げる前に
主人公は鎖を力の限り引っ張った


「な、っ!!」


突然のことに体勢を崩し
勇者の影は引き寄せられるままに主人公の横の地面に倒れこんだ


その瞬間に酷い衝撃音と小規模な地震が
先程の勇者の影の立ち位置を抉っていた

主人公に怒声を浴びせる間もなくその状況を把握した勇者の影は素早く起き上がり黒剣を抜いた




「何あれ、勇者の影の友達?」


主人公は後退り乾いた笑いを零しながら目の前に現われた黒い魔物を指差した


「俺に友人など存在しない」


それは今まで見たことは無かったが勇者の影はその『記憶』を持っていた

数年前このハイラルを侵略した影の世界の支配者が

ハイラルの各地に遣わせた魔物
影の住人の変わり果てた姿だ

勇者の影は各土地に染み付いていたその記憶
『リンクがその魔物を倒したという記憶』を散々味わってきたので
目の前の不気味な生きものを知っていたのだ




「なんかその発言、すんごく寂しい人みたいなんだけど」


「あぁ、俺もそう思った」









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