AM | ナノ









ゼルダと別れ城下を離れてから小一時間
一行は西のゲルド砂漠へ向かい平原を移動中

主人公の半歩先を勇者の影が歩き
仮面が後からついてきていた


勇者の影はムジュラが当然のことのように同行していることも気掛かりだったのだが
それ以上に主人公のことが気に掛かり頻繁に後ろを振り向いていた




「主人公、その暑苦しい格好は何だ?」



主人公は首から肩から紺のローブを巻き付けていた
てるてる坊主のように膝下まで覆った布の塊と化したそれの天辺から彼女の短い金髪が飛び出していて何とも奇妙な格好になっている
ハイラル城を訪れる前まではそんなものは着ていなかったから
恐らくはゼルダにでも貰った代物だろう


別にそれに文句を言うつもりはないが
何といっても彼女自身が暑苦しそうに額に汗をかいていたものだから勇者の影は脱いでしまえばいいのにと声をかけてしまった




「これから砂漠行くのよ?これがフツーなの、私は人間なんだから暑くて死ぬこともできるの…まったく」


「…」


勇者の影は言葉もなく息をついた

だからその砂漠までの間はせめて脱いでしまえばいいではないかと
言う気力もなくなった





(…砂漠に行っても無駄だというのに)





砂漠に向かう目的はとうに失ったはずなのだ
陰りの鏡がないのではそこに行っても影の世界へは行けない

無駄であるのは明らかなのに次の目的地を砂漠と決定づけたのは

あの仮面の憎らしい言葉が原因だった














「ボク、昨日砂漠でヒカるのを見タンだよネ」




「よしっ!砂漠に行くわ」






そんな具合であっさりとゲルド砂漠に向かうこととなったのだった




「私、ハイラル中を色々回ってきたけど…砂漠は行ってなかったんだよね」


主人公の手が勇者の影の首から伸びる鎖を鳴らして陽気にそう言った



「だからちょっと楽しみ、砂漠初体験」


「……本当に何も無い場所だぞ」



らんらんとスキップでも始めそうな主人公に
水を差すようで悪いと思いつつも勇者の影は事実を突き付けた

主人公がこれまでの旅の途中でリンクの手掛かりを掴めなかったくらいだから
勇者の影は彼女以上に多くの地を訪れ片っ端から『記憶』を食べ回っていたということになる
その口振りから言っても砂漠には訪問済みらしい




「だからーそれは以前の話でしょ…ムジュラ、言ってやりなさいよ」


「砂漠でナンか光っタの!オレはそれを見タのっ!」

「城からでも見えるくらい強い光を発する何か…その『何か』は、以前に行った砂漠にはあったかしら?勇者の影くん」


「…いや、無かったと思うが…―」


「つまりもう砂漠は、『何も無い砂漠』じゃないでしょ、行ってみる価値は?」

「スッゲーある!キヒひっ、行カナきゃナラネーだろ」


「うん、正解!勇者の影、分かったらさっさと歩きなさい」


「アハはぁ、歩けアルケっ、勇者の影のばーか!」



何故かすっかり息が合っている主人公とムジュラに圧倒されながら勇者の影はトボトボと歩いた


だからその「何もない砂漠じゃない砂漠」に行っても
それでリンクに繋がる手掛かりを得られるとは限らないし
むしろその確率は低いと直感しつつ

では他に目的地があるかと問われれば何も言い返せないので
勇者の影は溜め息をついた









[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -