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「カゲの世界にイきタイのか?止めたホウがイイとオモウなぁ」


「行きたくても行けないんだっつの!」


「あーソウ?ヒヒひひ」



主人公の苛立ちを含んだ怒鳴り声に退散しようとするムジュラを勇者の影が捕まえた




「貴様、何か知っているな?」


「どうかナ?忘レタゼ、ケケっ…あっ、痛!ゴ、ゴメ…っスミませんでした!」


(うわぁ…)



ムジュラの仮面はあちらこちらを勇者の影に破損されて見るも無残になり
その質量も口も軽くなった



「黄昏時に世界は交ワル、って聞いたことあんダロ?ケケっ」


「いや知らない」


「…聞いたことはあるが、それが具体的にどういうことかは分からない」


「ククク…、オレも知らネ、ただそういう話がアルダケ…いっ、勇者の影止めろっ、…ただ、っソノ世界行きたイんナラオレを被ればイインジャない?」


「嫌だよ」


願望を叶えるという曰く付きの仮面だがその代価が安くないと言われては誰が被るものか




「しかし、本当に行き詰まったな」



勇者の影は溜め息をついて腕を組むが
右腕が無いためにそれは成功しなかった



「ていうかその腕、どうにか治せないの?」


「……」



勇者の影は少し考える仕草をした後

急に足元の芝に左手を置いた
そして彼が深く空気を吸い込むと
目に入る景色が微かに
勇者の影に向かって歪み

右腕から黒い霧が湧き出て左手と対称的な腕が生えた



「わぁ…」


「何ソレ?ナンデ生えてキタの?」



「…この敷地内の『記憶』を吸い取った」





――
 ゴッ





「ぐっ…この、主人公っ!」


主人公にグーで殴られた勇者の影が制止の為に言った言葉で本当に主人公は止まった
追撃の拳を振り上げたまま


「何だ?」


「いゃ…懲りずに『記憶』食べるから、殴ったんだけど……」


「アハはははハハっ、勇者の影いい気味ぃ!」


主人公はムジュラにも殴り入れてから尻餅をついたままの勇者の影に目線を合わせた










「初めて私の名前、呼んだね」





「悪いか、…主人公」






主人公はその返答の変わりに柔らかく笑んだ

勇者の影の胸に疼く何か落ち着かない感情が顔を背けさせた






(なンカ嫌なカンジぃ)


ムジュラは殴られた箇所を労いながらフラフラと高い空に舞い上がった
二人の持つ雰囲気が気に入らない様子だ



ふと見た地平線の上に星とは違う輝きをムジュラは発見した



「砂漠デ何か光ったナ…ヒヒヒ」



ムジュラは自身よりも高い空に浮かぶ月を見た

いつか誰かの願望に紛らわせてあの星を落とそうとしたことがあったものだと思い出していた


「誰カガ望まナイとオレ何も出来なインだよナぁ…ヒマだ」



他に欲深い人間に取り憑くこともできる
しかしムジュラはウロウロした末に城に戻った

仮面の負傷した部分はいつの間にか跡形もなく復元され
ムジュラは懲りずに笑った











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