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そこはいつの時代のハイラルだっただろう
そんなことは覚えていない

ただそこは水の神殿と呼ばれていて
そしてこの場所は神殿内にある広大な一室だった


この部屋は霧が立ちこめている
踏み入った者を惑わし果てしない迷宮へと誘う霧

部屋は床の上に薄く水が張られている
上を歩いた者の姿を映し出す鏡のような濁り無い水



この空間の何処に
俺は自分の存在を置けばいいのだろう

俺はその部屋に居るが

姿は水面に映らない
霧に囲まれて不安にもならない




俺は一体







「君は…?」





部屋に入った一人の男の姿が水面に映し出される
その水面の影は男の足から剥がれ
男と同じ空間に実体を持って現われた




「俺はお前だ」




俺が言葉を発した
何故声を出せる

俺は何処に居る

俺には手足があった
目があり口があった


俺の姿は男から剥がれた影そのものだった


男の緑の服とは対照的に

尽く黒い色彩を帯びていた



「俺は…リンクだ」



何故俺がそれを知っている

ただ頭で理解するよりも口が動いた

俺はこの部屋でその男が来るのを待ち続けていた
俺はこの男――時の勇者を殺す為に魔王の力で息づいた

確実に勇者を消すために
勇者を映し出した姿で






















「つまり君は勇者殺しのために魔王の魔力で誕生したわけか…前の魔王の」


勇者の影は頷きながら
彼の足から逃れようとカタカタ震えるムジュラを睨んだ

ゼルダは主人公の隣にいて勇者の影の話を黙って聞き続けた





「それで時の勇者と戦ってどうなったの」


「……敗れた」


「あれま」


「ネェーもうナニモしないから離シテよぉ!」



主人公はソファーに大きく陣取って備え菓子に手を伸ばしていた
もうムジュラの悲鳴じみた声一つにいちいち怯えもしない


「だが俺は消滅はしなかった…身体を失いながら幾つもの時代を生きた」


「だから今ここにいるんだねぇ」


主人公が頭を上下に頷き
話が解決したように部屋が少し静かになった

黙っていたゼルダはそこで口を開いた


「先程の、『今の』ゼルダ、というのは?」

「そーそう、確かに気になる」


「……ハイラルは何度も、同じ歴史を繰り返している…魔王は必ずガノンドロフ…勇者は必ずリンク、その時のハイラル城の主はゼルダ…トライフォースをめぐる戦いを、俺は何度も見てきた」


「なっ、…何でそんなに同じような歴史が繰り返されるの?おかしいじゃない」


大体そんな繰り返す伝説が残っていれば
誰も生まれてきた男子にガノンドロフなんて名付けないし
もっとトライフォースの神話は身近に根付いて人々の争いも絶えない筈だ



「ハイラルは…長い歴史を持っていますが…勇者とトライフォースに関する歴史は殆ど綴られていないのです」

「何それ!?どうしてそんなことに…―」

「俺が勇者の『記憶』を食べるからだ」


勇者の影のその言葉が終わった瞬間に彼の頭目がけて矢が突き刺さった


「うぐっ!?」


「きゃぁ!!!」


勇者の影は強い衝撃を受けて床に倒れ
ゼルダはあまりのグロテスクな衝撃映像に悲鳴をした

矢を放ったのは主人公

そうなれば勿論矢は光の矢である



「貴様!何をするっ、」


「あんたの暴食で歴史に穴が空いてんじゃん!馬鹿も程々にしなさい!!」


「主人公!お、落ちついて」



追加で光の矢を刺そうとする主人公を抑えるゼルダの健気な様子を

勇者の影から逃れたムジュラが小さく笑っていた





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