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「勇者の影…」


主人公の顔は引きつった
ゼルダは小さく悲鳴をあげ口を手で押さえた



「右腕…どーしたの?」

「あぁ、…忘れていた」


忘れていたで済む問題かと口に出そうになったところで主人公は堪えた
こんなことで騒いでいたらこの先長く付き合っていけないと思った

しかし勇者の影の右腕は見るに堪えない姿だった
と言うより見ることもできない
何はともあれ彼の右腕は肘から下が何も無かった
肘の断面から黒い靄が湧いていて痛々しいようには見えないが見ていたくないものだった



「まぁいいや…ゼルダ、この人こんな感じだから気にしなくていいよ」


話を進めようとする主人公の声はゼルダには聞こえていなかった
様子の異常に気付いた主人公は彼女の見ているものを追った
それは勇者の影の無残な右腕などではなく
勇者の影の頭の上に乗っかっている気持ち悪い面だった




「……勇者の影、そのいかしたお面は何?」


「ムジュラ…らしいが、何かはよく分からない」


勇者の影はムジュラを左手で持ち主人公によく見せようと差し出した



「いけません!それに触れては!!」


主人公が受け取ろうと出した手を引き
ゼルダは出来る限りその面から距離を取った
勇者の影は一人でムジュラを差し出した格好で止まっている
二人に引かれた彼が少し疎外感を感じたのは彼の秘密だった





「あーぁ、モウスコシだったノニナァー!」


今まで静かにしていたムジュラがケタケタと笑い始め
スッと勇者の影の手から離れると彼の周囲を漂った


「勇者の影にはボクの魔力がキカナイんだもん!何デダローな!ダカラ人間に乗り換えヨウト思ったノニ、お前、邪魔バッかリするな」

「何だ、そうだったのか?」

「何ふつーに感心してんの勇者の影!そいつ何かヤバいでしょ!?」


主人公はゼルダと共に怯えなからフワフワする仮面に指差した


「アタシ、何もやばくナイヨ?イカシタ仮面だもん」

ついさっきの自分の「いかしたお面」発言を引用されて主人公は大いに後悔した

ムジュラは主人公の反応に面白がって接近した
二人は距離を保とうと後退するが背後はすっかり壁だった
逃げ場が無いと知って神頼み代わりにゼルダを見たが
彼女は今にも気絶しそうな程青ざめていた

(そんなにヤバいのかあの仮面!?)



「オマエ、アタシを褒メタだろ?アタシ、お前ガ気に入ったヨ」

「いえ、褒めてません!一切全く!ほんと、勘弁しむぐぇ!!」


言葉半ばになってしまったのは
ムジュラが主人公の顔に填まり密着したからだった


「んむーー!っんー!!」

主人公はその場に蹲り顔に吸い付く仮面を引き剥がそうと奮闘するが全く取れなかった



「主人公!!」


ゼルダが必死になってそれを手伝うが効果はなくゼルダの方が死にそうな顔をした



「…そんなに危険なのか?」


あまり事態を飲み込めていない勇者の影が恐る恐る尋ねた
彼も先程同じように仮面に被せられたが直ぐに取り外すことが出来たため
あまりその状態に危機感が湧かなかったのだ



「このままでは、主人公の身体が奪われてしまいます!!」


そういえばそんな感じのことをムジュラから聞いたと思い出して勇者の影は呟いた



「…それは危険だ」



この状況の危険度を了解した勇者の影だがやはり緊張感に欠ける声色だった
しかしそれでも本人は立派に焦っていたらしい


勇者の影は窒息死しそうな主人公に近づくとゼルダと一緒になって仮面を引き剥がしにかかった



「んんーー!!」


「クソ、何故外れない!」

勇者の影が力一杯に引っ張るが仮面はびくともせず
むしろ主人公が痛がるだけだった
勇者の影は掴む場所を仮面の角の部分に変えて更に力を込めた






―  ボギッ



「「あ」」



「イッテぇぇぇーーー!!!」



ムジュラが悲鳴を上げた直後
仮面は呆気なく主人公の顔から外れた
勇者の影の手に仮面の角が握られたままゼルダと勇者の影は茫然とした
ムジュラは部屋中を泣きながら飛び回り
主人公は咳き込んで涙ぐんだ







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