AM | ナノ





「事態は最悪…なんたって勇者の手がかりが無いんだ」



場所を城の客間に変えて主人公が口を開いた

いったい何百人の客人を招いたら部屋がいっぱいになるのか検討もつかないほどその客間は広く
ゼルダの計らいで警備の者も追い出した為によけい部屋の人口密度が小さくなった


「リンクの…故郷の村には行かれたのですか?」


ゼルダが中庭に面した巨大な窓ガラスから外を見て言った
外の陽は高く、もう昼過ぎだった


「村に行くまでも無かった…何か、その…変な男に会ってさ、それが今は私の連れなんだけど」


主人公が言いづらそうに言葉を濁すとゼルダは部屋にただ一つある出入口の扉に寄り掛かる主人公を見た



「それが、トアル村の人間のリンクの記憶を全部食べたって言うんだ、…つまり、何て言うか…誰もリンクのことを覚えてないみたいな、…それどころか存在自体知らないことになってるわけよ」



主人公は自分でも言っていることが分からなくなりそうだった
何だってこんな馬鹿げたフィクションのようなノンフィクションを
一国の王女に真剣に話しているのかという疑問を押し止めた



「そいつ、勇者の影っていうんだけど…『勇者の影』とかいってて…黒くて」

「それは…どういう意味でしょうか?」


「いや、私もよく分かんない…ただ勇者の影もリンクを探してるみたいだから連れてきたんだけど、これが全く役に立たなくて」


「その方は今何処に?」



先程から散々話には出ているが肝心のその男の姿は何処にもない
ゼルダも気に掛かる言葉を聞いて是非とも彼の話を聞きたいと考えたのだがどうも今すぐには叶わないようだ



「それがね…城の中ではぐれちゃって、何処を彷徨ってるかわからないんだ、コレが」


主人公が参ったと呟いて扉から離れた直後に勢い良くその扉が開いた



「いだっ!!な、何なの!?」


「はっ、申し訳ございません!」


入ってきたのはそこらの警備兵とは違う装飾の鎧をきっちり装備した偉そうな男だった



「何も言わずに入ってくるとは何事です」


「そーだ!あんた何事だよ!」


「無礼を承知で参りました、城内で暴れ回っている男、もしや御客人のお連れではないかと……」


「あー!それ、その人私の連れだと思うわ!」



今まで控えめな態度の兵士だったが
主人公の言葉を聞いて兜の下からギロっとした視線を彼女に突き刺した



「ではどうかあの男を止めていただけませんかな?城の被害がただことではないのです」



「あ、…はは…ごめんなさい」



主人公はその威厳と怒りに満ちた目に気まずく謝罪をするため

目を伏せたとき

その兵士の呻き声と振動音が一瞬で駆け抜けた



「ギョっ!?」


主人公が顔をあげた時
その兵士は扉に派手に押しつけられて壁にまでヒビが入っていた

そしてそれをしでかした本人は兵士と入れ替わるように主人公の目の前に立っていた





「…っ無事、か?」



「勇者の影!?」



主人公は彼になんと声をかけていいのか途方に暮れた

先程の兵士が押しつけられた頭からずるりと床に落ちる音が止むまで主人公と勇者の影はストップして



ゼルダは目を見開いていた







[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -