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Another side : have and smile










「…風が止んだ…か?」


男は泉の畔に腰掛けて
自分の目の横を揺れていた灰色の前髪を観察した
そんなことは大した問題ではないように思われたが
無ければ無いで何となく気になってしまった

しかし考えてもどうすることも出来ない自然現象だと理解し
男は立ち上がり歩き始めた


黄昏の横光が木々の幹の向こうから男の姿を照らすが
光を向けて良かったのかと
ついつい太陽が戸惑ってしまう程に男の姿に光は似合わなかった
服、帽子、ブーツ、剣、盾…全ては漆黒に塗られている
足元から伸びる長い影と男の姿の違いを伸べるなら
色が褪せたような髪の灰色と
瞳に沈む紅色だった





「リンク?」


不意に掛けられた声
その主は男の前方に立ち尽くしている娘であることは明白だ

娘はここまで引いて歩いてきた馬を残して男の元に駆け寄った



「リンクなの?ねぇ、今までどうして…?」


リンクと呼ばれた男は笑い
娘の言葉を遮った
娘は男の笑みが自分の知る『リンク』という人物と違う邪悪さを持っていることに気付いた


「俺を知っているのか?」

男は笑みを絶やさずに口を開いた

「…よく知ってるわ、リンクのことなら」

しかし娘は頷く動作までは付け足せなかった
男の声は娘が聞き慣れていたものよりも低く背筋が凍るように作用した





「なら教えてくれ…俺が何者か」



言葉を放った瞬間
男の身体は服の漆黒と同じ色になり黒い霧へと姿を変えた


「きゃぁぁっ―!!!」


霧は娘の身体を蝕み同様に黒色にしていく
かと思えばその黒は徐々に下へと引いて行き娘の影と同化した


娘は気を失いその場に倒れる


娘と地面の間に入り込んでいた影が生き物のように動き
やがて先程の男の姿となって立体に現われた



「なかなか濃い味だったな…」


たった今何かの料理を平らげたように口元を手の甲で拭い
男は傍らで倒れている娘に視線を投げた



「ごめん、イリア」


言葉とは裏腹に男は愉快そうに笑い続ける



「リンクの口癖、だろう?」


確認を取るように尚も言葉を続けるが返ってくる声は無い




男は立ち上がり娘が連れていた馬を見据える

その向こうに見える小さな村の存在を確かめる



「流石は奴の生れ故郷だ」


唇を一舐めし
先程味わったものを思い返して目を細める


男はまた歩きだす

止んでいた風が急に吹いてまた止んだ
下から上に吹く不思議な風だった
誰かが上空から大きな掃除機を起動させたようだと男は思った

しかしその不思議を辿るよりも先に
男は村への道を足早に進んだ










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