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主人公はというと
相も変わらず当然城内を走っていた

最近走ることが多いとしみじみ考えるが別段体力が増えているということもない
走り損だと嘆きながらも
何十人もの兵に追われている現状ではやはり逃げないわけにはいかない



「私は無実だーー!!」



彼女は無実だった
しかしそんなことは追っ手の兵には全く関係なかった
実際に城の警備の兵士の殆どが何者かに倒されて今も尚門前や廊下のど真ん中で気絶中であり
その真犯人が主人公かどうかは分からないが
彼らにとってはこうして逃げ回っていることが何よりの証拠と成り得るのだ

主人公も無実を主張しつつも
このハイラル城前代未聞強行侵入劇の真犯人が彼女の連れの男となれば
捕まってしまっても余り文句が言えないからやはり逃げる




「クッソー!大体、勇者の影の奴があんなに張り切ってるから…、てゆーか本当に何で張り切ってたんだろ…」


昨夜から勇者の影の様子はおかしかった
城下の広場で何かと戦闘した後の彼は変なコンプレックスを突かれたような思い詰めた表情だった

昨夜の宿から出ていく気配を主人公は感じていた
気付いていたが止める気にはならなかった
ただ明日には帰ってくればいいなと思っただけだった

そうしたら本当に朝には戻って来たのだ

あれだけ「隙あらば逃走」と豪語していたのにノコノコと戻ってきたのだ
まずあの時点からおかしかった





「城に来るときも自棄に協力的だったし…何か心変わりがあったのか…?てことはあの張り切り様も私への親切心だったり…ふぎぁっ!!」



廊下の真ん中に倒れていた兵の腕に躓き派手に転んだ
いいタイミングで主人公の言葉を遮ってくれたそれは「それはない」とでもツッコミを入れたように思い
主人公は意味もなく腹立たしくなった


そのままもたもたしていた主人公の四方を追っ手が完全に包囲した



「あららら…?」


「観念しろ!」


槍を突き付けて構える兵の顔が余裕の表情だったことで主人公の疲労感が三割り増しになったのだが
その言葉にイラっとした主人公は無理矢理に息を整えて大声を出した





「無礼者ども!!」


「!!?」


急に聞こえた勇ましい声に兵士達の槍は狼狽えた
そしてその声が主人公のものだと気付きまた警戒を強化した

主人公は続きの言葉を出すのに少々躊躇いを感じたが半ばやけくそにまた大声で続けた



「私は神からの遣いだ、王女ゼルダに話がある…分かったらここに連れて来い!!」

「…なっ……」


突拍子もない彼女の言葉にすぐに了承できる者は誰一人いなかった
ましてや自分達の主君を卑俗な侵入者の元に連れてくることは問答無用で無理だ
しかし突然堂々と振る舞う主人公を前に彼らはどうしていいか戸惑った
もの凄く自分達の方が劣勢で悪いことをした立場に置かれたようだった







「私は此処です…主人公」




兵士の群れの奥から透き通る声が聞こえた

それは間違いなく主人公の捜し求めた人物だった



「ゼルダ!」



ゼルダが主人公へ近づく間に立ち尽くしていた兵は挙って王女に道を空けた
彼らが必要以上に端に寄るのでその城の廊下は元の広さ以上に解放感が満ちた



「主人公、一体どうしたのですか?」



再会を喜び合うよりも先にゼルダは主人公の無謀な侵入劇を問いただした

城の兵が総出で彼女を追い掛けていた
大門の周辺には兵が散らばっていた
まったく穏やかではないこの事件の犯人が主人公であるとは考えがたいものがあったのだ




「私のせいじゃないよ!ちょっと連れの奴が…そうそう、その、私の連れに会わなかった!?」


「いいえ、私は誰にも…主人公、少し場所を移動しましょう」



周囲に緊張したままの兵士の目を気にしたゼルダは提案した
主人公も素直にそれに従いゼルダの後を歩きだした

壁に張りつき二人の道を開けている兵士達に
主人公は勝ち誇った笑みで別れを告げた






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