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恐らく何か願いを叶えることでも済ませないとこの仮面は勇者の影から離れていかないだろう
考えた挙げ句に勇者の影はムジュラに頼んだ



「俺をこの城の主の元へ連れていけ」


「ソレハ嫌!!」


「……」


ムジュラの叫びが耳を痛める
勇者の影が紅い目で睨んでも仮面は変わらず喚いた


「アタシを閉じ込めたのはそイツだよ!?イきたくないノ!」


「だったらせめてその気味の悪い動きを止めろ、目障りだ」





「あーソウ?ワカッタヨ勇者の影、キヒヒヒ」



ムジュラは勇者の影の目の前で動きを止めた
頻りに笑い声をあげた後
仮面は勇者の影の顔に迫りピッタリとはまった



「何をする…」


「イヒヒ、これてオデとオマエは一つだろ?」



何がそんなに楽しいのか
ムジュラは高らかに笑った
前が見えづらいことに勇者の影は苛立ち
仮面を下に叩き落とした



「イタイっ!!?」


「貴様がもう少し仮面らしくなってからにしろ、そういうことは」



勇者の影が何事もなくまた歩き始めるのを
ムジュラは仮面ながらにポカンとした表情で眺めた
自分がハエさながらに叩き落とされたことも十分ショックだったのだが

それ以上に納得のいかないことがあった





「ナンデ?どうして今、顔カラ外れタのヨ?」


「何だ?」


「オレサマが誰か知らないノ?ムジュラだぞ?ムジュラの仮面!」


「それがどうした…」



ムジュラは叩きつけられた場所から素早く勇者の影に追い付き彼の顔に詰め寄った



「人のヨクボーを現実ニスる忌マワしい仮面だヨ?世界も破滅サセるノロわれた仮面ヨ!?オレを付けた人ゲンはホンノウに従順に突き動キ、他を傷つケ、全てを手に入れるマデ、命尽きるまで、俺さまヲ取りはずスことはデキナいのに!?」


「……そうなのか?」


ムジュラは一気に声を出したせいで息切れでもしたようにゼェゼェと仮面を揺らした
余りにも辛そうな様子に勇者の影は仮面を手の上にのせてやった

なるほど、それでこの仮面はそんなにも必死に楯突いているわけだ
簡単に勇者の影の顔から外れてしまったことがこの仮面なりのプライドを傷つけてしまったようだ

あんなに厳重な地下牢に封印されていたのにも合点がいく



しかしまだ一つ分からないことがあった









「…何故、貴様のような物が生み出されたのだろうな」




それは彼自身に言っているようでもあった






「ケケっ、さあ、ナンデかしら?バカナ人間タチが、アタシみたいなのを欲しがったンジャないの?」



「そうか…」




ならば自分はどうだ?

誰が求め必要とする?

誰も居ないのだ そんな人間は

では何故生まれたのか

勇者を殺す為

そう答えは出ているのに

何故それを果たせない自分が幾度も生き続けるのか


答えを掘り起こしても自分に穴が空くだけだった




勇者の影は黙って歩き続けた
今は目の前の目的を果たそうと
とりあえずはこの地下道から抜けようと、奇妙な仮面を引き連れて歩いた






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