AM | ナノ







外は薄明るく

太陽はまだ無い




主人公は窓を開けてそこから空の色を観察していた

ひんやりとした早朝の空気が窓枠を這って室内に流れ込むが
主人公は寒がる様子もなく肘を着いていた


眩しくもないのに目を閉じて彼女が待つものは
ここ数日のうちに吹かなくなった風



待てども風は吹かないで

その代わりといってはなんだが部屋の戸を開けて勇者の影が帰ってきた






「……戻ってきたんだ、ね」


「何をしているんだ」



主人公は彼の方を向かず伺うように呟いた
もちろんその呟きは勇者の影に聞こえていたが
どう答えていいのかわからない時は話題を変えるに限るということを彼は何時の間にか学んでいたらしい





「君の新しい名前、考えてた」


「…」



勇者の影は確かに名前は要らないというような旨を言った筈だと思い返した
それでも懲りずにまた名前を付けようとしといるらしい主人公に少し呆れると同時に
何かを思い詰めた彼女の表情に身体の奥が黒く淀む感覚に襲われた





「ねぇ、どうして戻ってきたの?」



主人公が勇者の影を見た

勇者の影は初めてその瞳が自分と同じ紅色だと知った



「貴様、俺が出ていくのを知っていただろう」


「さぁ?今朝起きたら…居なかったから、困ってたところだよ」



主人公は窓を閉じて伸びをすると
弓矢を背に備えて戸の前の勇者の影に歩み寄った
ふんわりと笑んで
帰ってきた勇者の影に感謝の意を込めているように見えた







ジャラ





っという金属音を聞き
勇者の影は唖然顔で表情を固まらせた
鞘に巻き付けて邪魔になるのを避けていた首輪の鎖が
見れば主人公の手の中だ





「おい、貴様…」




「そんじゃ、行きますか!ハイラル城に」




何処か昨日とは様子の違う主人公に
少し、ほんの少し、心配擬いなことをしてしまった自分を勇者の影は呪い殺してやりたかった

お構いなしにニカリと前歯を見せた主人公は鎖を引く



窓から陽光が差し込み二人の出発を優しく促した










[*前] | [次#]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -