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Your side : stop and start




女は微弱な風に揺れるブロンドの髪を眺めていた
この国の王女にあたる人物の髪を



「これは…そんなことはっ…」



王女ゼルダは普段の冷静さを全く欠いて
それでも言葉を紡いだ


「……はぁ」


女はそれまで傍観するだけだった態度を少し改めて溜め息を漏らした
そうせずにはいられなかったのだ
何せ面倒を相談しに王女のもとを訪れたというのに
たった今その王女に面倒を増やされた
と、言うより目の前に居た男にだ

更に正確に言えば『居るはずだった』男だが



遠くに城を望むことができる丘の上
無残に破壊された石碑の残骸が散らばっている
わざわざ説明されなくてもそれが意味することを女は知っていた




「魔王の復活…ね」



女はその事実を恐れているというよりも
面倒臭がっている様子だった


「主人公…、貴方はこれから何をなさるのですか?」


ゼルダは未だ震えを抑え切れない声で尋ねるが
女はゼルダの問いにはすぐに答えなかった



「……、ゼルダは城を離れない方がいいよ」


それはゼルダが真に求めていた答えだった

国の王女として『自分が何をするべきか』の答えを他人に求めることは許されないという意識があったが
女は王女ゼルダのそんな心中を何となしに感じて正確な答えを与えた


女は西に沈む夕陽を睨んだ
その麓に広がるはずの砂漠の存在を睨んでいた



「私は…時の勇者を探しているの」


急に飛躍した女の言葉にゼルダは少し考える仕草をした
気に掛かる単語が耳に入ったからだ


「勇者…と、呼ばれる方は存じております」


女はゼルダの言葉にそれまでの無表情を崩した



「…本当に?その勇者は何処に居るの!?」


女は半ば掴み掛かるような勢いでゼルダに詰め寄った


「…、ハイラルの南、森を越えた先に『彼』の生まれ育った村があります」


女は言われた途端に視線を南に変えた
女がこれから向かう予定だった方向でもあった




「…やっぱり、貴方に会って良かった…勇者について知る人が居なかったんだよ、殆どの町を訪ねたのに」



ゼルダは女の言葉に耳を疑った

その勇者は魔王を―― ガノンドロフを封印する為にハイラルの全てを旅したというのに
勇者は数々の出会いを経験してきたというのに


人々は『彼』を知らないと


目の前の女はそう言ったのだ



ハイラルの草木を撫でていた弱い風がその勢いを益々失っていく

ゼルダは気付かなかった

その微風が伝えていたこと
それが止まったことの意味






「フロルの風が止んだ」





女は誰に言うでもなく呟き走りだした
黄昏の陽光を視界の右端に捕らえながら











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