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俺、食欲とか、睡眠欲とか、そういうのにすっごい正直なんだよね、って
傍にいたムジュラに言ったら、イイコトだネ、って返された
今にも意識を途切れさせてしまいそうなくらいに眠い、凄く眠い
力の抜けていく身体が重力に逆らわず、ぱたりと仰向けに草の上で転がった
チカチカと星の光が目を刺していた、月も、眩しい、綺麗だけどさ
もっと暗くて静かな場所が、俺は、好きだなあ


「どうせ、なら…黄昏時に、皆に会いたかったね」

「ナンデ?」

「俺が……一番好きな時間だから、かな」


特に意味もない俺の好き嫌いの話に、一番反応したのはクレだ
おかしな話だよほんと、クレは俺を知ってるみたいで俺もクレを知ってるような気がするのにさ、なーんにも思い出せないんだ
それが申し訳なくて、罰が悪くて、誤魔化してやろうかと笑いかけてみたら複雑そうな無表情が返ってきた

無表情なのに複雑そうとか、いよいよ俺の眠気もやばくなってきたようだ
これが夢から覚めるってことなのかな、とか考えてると、ムジュラが真上から俺を見下ろして、歯を見せて無邪気な笑顔を浮かべた


「もうお別れ、ダネ」

「そう…せいせいするんじゃない、特に勇者の影とか」


「勇者の影ー、器の小さいオトコは嫌われるゾー!」

「恐れながら…同感です」


一度は穏やかになったのに、俺と話してから何かムスッとしてしまった彼を、ムジュラがからかい、クレはからかいか本音か分からないけど同意する
少し離れたところにいる俺たちにまで聞こえるような大きい舌打ちで返事があった
そんな、楽しい彼らを見ていると、自然と笑えてくる
きっと、俺の想像だけど、主人公はいつもこの輪の中心にいて、楽しそうに笑ってるんじゃないかって

でも俺は彼女を守るのもダークリンクにまかせっきりだし、笑わせてあげられるほど面白い人間でもない
こんなに大切にされている主人公の傍に俺がいること、もしかして勇者の影が怒っているのはそこかもしれない

途端に申し訳なくなった俺は、ごめん、って謝った
ムジュラも、クレも、少しばかり驚いたような顔をしたけど
振り返った勇者の影の顔は驚きなんかじゃない、鬼、みたいな、あんまり直視したくない顔



「いいか、俺は貴様を認めたわけじゃない、それを承知で聞け」


「はぁ…」


「主人公を!……頼む」



胸倉でも掴んできそうな勢いで、何を言い出すかと思えばそんな優しさあふれる言葉
顔が勝手に綻んで、頷いた、絶対無事に返すから、って俺の力量に不相応な約束までしちゃった
そうしたら勇者の影はふんとそっぽを向いて当たり前だとぶっきらぼうに言った、ああ、主人公ってば大事にされてるなあ


「俺の方からも…主人公、戻ったら、お願いね」


何を、お願いなんだろ
多分俺なんかに頼まれなくてもこの人たちの方がよっぽど彼女を安全な旅路にしてくれるだろうに
なのに勇者の影は赤い目をキッとこちらに、向けて、対抗心でも燃やしてるみたいに噛みついてくる


「何度も言うが俺は貴様を認めたわけじゃない、だから言われなくても…!」

「プヒャヒャヒャヒャ!!勇者の影必死!ウケる!!」

「貴方は……在らぬ勘違いをしているようですが」


この長くも短い時間の中で、クレが発した、一番呆れた声音で紡がれたのは

勇者の影がずっと勘違いしていたらしい事柄の、真実




「彼女は、女性です」





勇者の影の驚く声とムジュラの笑い声を聞きながら俺は眠りについた


なるほど、それでやたら彼は俺に噛みついてきたんだ、主人公をとられたくないからって
そりゃそうだろうなぁ、彼女から貰った名前をあんなに大切にしてるんだからね
大丈夫、心配しなくたって俺は主人公を勇者の影たちから奪うことなんてできやしない
然るべき時が来たらちゃんと、還すから、それまでは、俺が一緒にいたっていいだろ

ふわふわしたあるかもわからない意識の中、いつか訪れる別れの日を思う
元よりあるはずもなかった俺たちの旅だ、でも俺、主人公の声も顔も手の温かさも全部、憶えてる
だからつまり、夢なんかじゃない、俺たちは確かに出会ってあの危険なハイラルを旅してる、これは、誰かが気まぐれに見せた夢

ねぇ主人公、俺、勇者の影と約束しちゃったんだ、君を守るって、だからこれまで以上に頑張らないといけないけど
あまり破天荒な行動はやめてよ、せめて、俺の手が届く範囲にいて、じゃないと護れないし不安になってしまうから

ああやっぱり、俺ってヘタレだなぁ





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