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何だか凄く眠い、数え切れない星たちに見守られて、私はまどろんでいた
前髪を、優しく撫でる手があるから尚更だ
大きくて冷たい蒼白の手に、何かの魔術でも乗せているんじゃないかと疑うくらい
夜風が寒くないのはいつの間にか、ムジュラくんが私の頭と草地との間に割り込んで、膝枕をしてくれているから

こうしていると幼い子供にでもなったような気分
寝かしつけられているのにまだ眠りたくない、眠るのがこわい
そんな子供の心境だ

私の意識を辛うじて繋いでいるのは、耳に心地よい低音の声
小憎たらしさしか感じなかったグレイくんの、声に、耳を傾けていると
返事を返す間にも眠くなっていく、他愛もない話だからかもしれない




「ネェ主人公、モウすぐ、ユメが醒めるよ」

「……そう」

「ふん…やっとか」

「…うっさいわねー…」


悪態だけは、吐く気力の残ってる私に、グレイは肩を竦めて呆れ交じりの笑いを口元に浮かべた
前髪を撫でていた冷たい手が離れていく
名残惜しさはあったけど追い縋るまでの余力もない、目だけを動かしてイクサの様子を見ると
大きな欠伸をして私の隣にごろんと横になってしまった、影の人らしいのに、夜に寝るんだ、面白い

私の不思議そうな視線に気づいたのか、イクサはにっと笑ってまた頭を撫でてくる
止めてよ私、見ての通りもう子どもじゃないのよ、そんな意図を込めて睨んでみたら
華麗にスルーされちゃったわ、もしかしたらクロくんをこんなふうに寝かしつけたこともあるのかしらね



「なぁ、主人公」

「ん……なぁに、イクサくん」

「素性の知れないお前にこんなこと頼むの何だけどよ、………クロのこと頼むわ」

「心配性なお兄さんねー……善処はするわ、…ふぁあ」



良いお兄さんだこと、クロくんもそんなに想われて幸せね
でもきっとあの子と再会して、旅を続ける過程で、私がクロくんを助けたりすることってあるのかしら
ううん、きっとあるわ、だって私だもの、ゴッドよゴッド、よく分かんないけど私神がかってるんだからあるに決まってる
でもそれが終わったら私たちやっぱり離れ離れになっちゃうのかしら、それはそれで寂しい気もするわ



「…もし、旅が終わって、クロくんと別れて、また会えたら…私のお婿さんにでもなってもらおうかな」



ふわふわした頭で、そんなifがあってもいいんじゃないかって思ってつい口走る
あの子はどんな反応するかしら、ものすごい勢いで顔を横に振ったり、はたまたきりっとした顔で頷いたり、さぁどっちだろう
冗談を本気にしてくれるクロくんはからかいがいがあって本当、飽きない子なのよね

考えれば考えるだけ面白く、意識は思考の海に沈んでいく
眠たいわ、こんなに眠気が強いならよく眠れるはず、明日もちゃんと早く起きなくちゃ
クロくんは低血圧、だし、起こすのは、ダークリンクくんにでも、やってもらおう、そうしよう、……眠い


くつくつとムジュラくんが可笑しそうに喉を鳴らすのが聞こえた

髪を撫でる手はまだそこにいてくれる

ふ、と笑った低音が、沈んでいく意識にそっと話し掛けてきた






「終始勘違いしていたみたいだが、クロは―――」






もしかしたら私にとって世界を揺るがす新事実を、彼は告げようとしていたのかもしれないけれど
とぷん、と、飲まれるようにして閉じた意識に、それ以上の声は届かなかった


身体と精神が引き剥がされるような感覚に襲われる
まだここにいたい、と望む私がいるのも事実、それでも
帰らなくてはいけない、今私があるべきなのは、クロくんの傍
あのハイラルを見届けるの、そして還るのよ、ちゃんとお別れを済ませてから、私たちが居るべき場所に、二人で

別々になってしまうだろうけれど、過ごした時間はなくならない

そうじゃなかったら悲しすぎて人間なんて生きていけないわよ、クロくんもそう思うでしょ

あんたなら、そうだね、て言って頷いてくれるわよ知ってる、また無茶振りするかもしれないけど、その度頑張ってくれるクロくんのこと本当に嫌いじゃないんだから
その時はまた頑張って頂戴、何だかんだ言って君のことは結構頼りにしてるのよ、私






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