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「ねぇ、あんた」




呼び掛けられたのは自分なのだと勇者の影は思った

真夜中0時を過ぎた城下町を歩くのは
彼以外には警備の男と犯罪でも犯しそうな人相の悪い男くらいだが
現在の勇者の影の周囲には人っこ一人見当たらないのだから



勇者の影は多少面倒に思いながら
恐らくは自分を呼び止めたらしい輩の顔を確認しておくべく声のした方を見た


しかしそこに人の姿は無かった

また何かの化け物が寄り集まってきたものかと警戒したところでまた声がした





「あんたリンクじゃないね…なに腹立ててんだい?」



声の元を辿るとどうもそれを喋っていたのは白い猫らしい
たっぷりとした毛を蓄えた大きいサイズの猫だ



「…猫には関係無い」


「あぁ、そうかい」



都会は人間のよそよそしさの代わりに動物がやたら馴々しく話し掛けてきて困る
世の中は上手く出来ているものだと溜め息を吐き
勇者の影は再び歩き始めたが
一歩半踏み出したところで誰かに帽子の先を引っ張られたように急に立ち止まった






「今の、何だ…『リンク』と言ったか?あの猫」




バッ、と風を起こしそうな速さで後ろを振り向き先程自分が立ち止まった位置を見ると
猫が小路への角に走っていく姿を一瞬捕らえた



勇者の影は反射的に方向転換と疾走をした



リンクの、勇者の記憶は食べ尽くした筈だ
この町にはほんの数日前に勇者の影は来たことがある
リンクに会った者、勇者の活躍話を聞いた者、彼と接触した動物
全ての心に染み付いたリンクを知る記憶と思い出を勇者の影は取り込んだ

筈だった


しかし先程の猫は確かに勇者の名を口にした




(…そうだ、あの猫は…確かに前に食べた筈だ)



そこらに屯している野良猫よりも濃い味の記憶を持っていたから特に覚えている
ということはあの猫は
記憶を食べられた後にまたリンクに会ったということも考えられるわけだ


猫はすばしこく道を行き
勇者の影は見失わないように白い尻尾を追い掛ける

猫を追うという滑稽な行動をとることになるとは彼自身思いも寄らないことだったが
少しでも勇者の香りがするものは追求しないではいられない、これも本能だった








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