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私の手によってボコボコにされたムジュラを労わる者はいない、が
赤紫の長髪を乱した彼曰く、適当に時間を潰していればそのうち元いた場所に戻れる、とのとだった
見ず知らずの怪しい相手を頭ごなしに信じ言葉を鵜呑みにするのも癪だけど、今はそれをすること以外私に残された道はない
真夜中の平原なんて一人で歩いてまたあの骸骨なんかが出てきたらどうするのよ、考えただけで鳥肌が立つわ
そういう意味でもこいつらにほんの少し役立ってもらおう、ちょっと打算的かもだけどまぁ気にしない

最初私に掴みかかってきたイクサって奴は打ち解けるとなかなか気さくな男で、退屈はしそうにない
ムジュラも私にしこたま痛めつけられた割に全く気にしていない様子だし
グレイとかいう男は私と目も合わせようとしないけど敵意は感じない、まぁ上出来だわ





「それでよ、あいつ隙さえあれば勝手にふらふらどっか行きやがってどんだけ苦労させられたことか」

「へぇ…クロくんがねぇ。いつも私の言うこと聞いてくれるいい子よ?」

「あいつ女には優しいからな、まったく誰に似たんだか」

「イクサくんが育てたんでしょ?」

「まぁ主に俺だけど……いや…うん、俺だな」

「言葉使いの端々それっぽいわ」


少々歯切れ悪いってことは何か後ろめたいことでもあるのかもしれないけど
イクサくんが何も知らず真っ白なあの子を育てたのならなるほど納得することが出来た
多少気が弱いのは反面教師かもしれないけど、どことなく似ている気がするのよね

なんて、ムジュラくんの無駄にさらっさらストレートでムカつく髪を弄りながら考え、談笑に興じていた
信用、は、してないけど、悪い奴らじゃない
それくらいは分かるわ、だってクロくんの仲間なんだもの
イクサくんに至っては家族なんでしょ、血が繋がってなくたって、きっと

私がそう訪ねてみたら、彼はきょとんと隻眼を見開いた後、カラカラと笑って首を縦に振った


「当然だろ?」


「そう言うと思ったわ」


ねぇムジュラくん、と、大人しく私に髪を弄らせていた彼に振ってみると
耳障りな、だけど少し控えめな笑い声でもって返してくれた
三つ編みにしても尚長い長髪、きっと解いたら何事もなかったようにまっすぐに戻るんだろう
やっぱりムカつくから、髪を引っ張ってやった


「イタ、イタイ主人公イタイ!」

「ちょっとムジュラくんそれだと私が痛い人みたいに聞こえるじゃない」

「強ち間違っていないな……」

「そこ、聞こえてるわよグレイくん」

「あーほら主人公、そんな顔すんなっていい女が台無しだぞ」

「あらありがと、イクサくんもなかなかイケてるわよ、クロくんには敵わないけどね」

「そりゃあ手厳しいこって」


ただの時間潰しだったはずなのに割と楽しい時間だったように思う
楽しい時間だからこそ、それは矢のように過ぎ去ってしまうもので、私はふと感じた眠気に欠伸をひとつ
まだ月は空の真上にある、から、眠くなるのは仕方ないかもしれないけど
眠りたくないわ、まだ、だって足りないのよ

あのハイラルに飛ばされて、曖昧になった記憶
その中で確立されたクロくんというあの子の
声が足りない
姿が足りない
笑顔が足りない
温もりが足りない

おやすみ、って、また、言ってほしい、じゃないと眠れないわ


あ、そっか、私、クロくんに会いたいんだ
だからこんなに楽しいのに、心のどこかが寒い、夜風の所為じゃない

あの子が、いないから



「……主人公?」


心配そうに私の顔色をうかがうイクサくんに、何でもないとだけ返して私は草原に仰向けに寝転がった
いい場所だ、骸骨いないし、星が綺麗、そこはあっちでも一緒だけど
平和に星の数を数えていられるのってとても、幸せなことだと思う



「あッ、流れ星」



長い前髪に隠れた目でどうやったのか、敏くムジュラくんがそれを見つけて指をさす
私は口に出さず願った、早くクロくんに会えますよーに




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