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「つまりお前は、主人公と旅をしていた、ということか?」


勇者の影というらしい俺に負けず劣らず黒い男の人が射るような視線でそう問いかけてくる
俺は頷いた、だって本当にさっきまで彼女と一緒にいたんだ、俺、なのに何でこんなことになった意味がわからない
六つの色とりどりの目に気押されて俺は正座で背筋を正していた
そういえば最初、主人公と出会った時もこうだった、骸骨の群れに襲われてた彼女を助けようとしたんだっけ
大丈夫かな主人公、今どこで何してるんだろう


「そういえばこの平原…夜なのに骸骨、出てこないんだなぁ」


良い場所だ、俺たちがいた場所もそうだったら毎度苦労せずに済むのに
半ば感心の嘆息を聞きとめた勇者の影が赤い目を見張った、何だろう俺何か変なこと言ったかな


「貴様、いつの時代の話をしている」

「いつの時代も何も、さっきまで俺と主人公がいた場所のこと…です。初めて会った時もさ、骸骨の群れに追っかけられて逃げ回ってたんだ、大丈夫かな…」


そわそわし始めた俺に、他の三人は互いの顔を見合わせる


「主人公だな」
「主人公だネ」
「主人公様です」


やっぱり彼女はそういうのが苦手らしい、きっと俺なんかよりもずっと、主人公を大事に思ってる彼らが言うのならそうだ
だって聞かなくたって分かるんだ、主人公はこの人たちにとってとても大切な存在なんだろう
だから俺に直接的な恨みがなくてもこんな状況を作り出せるんだ、ああ頭痛いよ

何でこんなことになったんだろ、全部夢だったらいいのに

でもどこからどこまでが夢だったらいいのかな
彼女に、主人公に出会ったのも、全部夢だったら、嫌、だなぁ

そんなことを考えながら明後日の方向を向いてると、黄緑色の目の、ムジュラって呼ばれてる人がまた俺の顔を覗き込んできた
そうやってじっと見ていられると心の奥底まで見透かされそうで怖い、いや、別に見透かされて困るような秘め事はないはずだけど
強いて言うなら早くこの面倒くさいことこの上ない三人から解放されることとか、だろうか


「な、に、ムジュラさん」

「ンー…オマエ、夢見てるんだナ」

「え?」

「コレは現実だケド、ユメ。僕らにとってもオマエにとってもユメなんダ」

「………」

「だからきっと、主人公も今頃夢見てるンじゃナイ?ヒヒッ」


なんだこいつ、意味わからない、そしてこわい
こんな時彼女がいてくれたらきっと俺の代わりにこの人を殴ってくれていたに違いない、いやでも仲間ならそんなことはしないかもしれない
どちらにしろ、俺にはそんな初対面の相手に手を上げる勇気もなく
かと思えばそんな俺の心境を映したかのように勇者の影がムジュラを思い切り殴っていた、痛い、今のは痛い
本人も思った通りの痛みを感じたらしく半分涙目になりながら喚いている、ああ、何て賑やかな人たちなんだろう
クレはと言えば仲介に入るでもなく至極面倒くさそうに、気づかれないような大きさで溜め息を吐いていた

それにしても勇者の影というあの人、最初はダークリンクに似てると思ったけどやっぱり違う
ダークリンクは何と言うかもっと、こう、…ヘタレてるんだよ、俺が言えたことじゃないかもしれないけどさ


これが夢でも現実でも、ここに、来たのが、主人公じゃなくてよかったなんて安堵してしまう俺がいる
やっぱりこんな中途半端な旅の終わりなんて嫌だよ、もし彼女がここに、本来居るべき場所に還っていたらそれで終わりじゃないか
俺は俺で還る場所があるんだろうけど、それは、彼女やダークリンクとの旅が終わってからでいい

割と楽観的に考えられるのもきっと主人公のお陰
確かに俺はこんな状況をどうにかできないくらい弱い、けど、それでも今までだって少しは彼女を助けてきたんだから
途中でそれを投げ出したくはないんだ、だからこの夢が早く覚めてくれることを神じゃない誰かに祈ることにしよう





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